トピック 2019年7月
「大腸がんモデルマウスにおいて、間質の2型脱ヨウ素酵素(DIO2)は腫瘍成長を促進する」
- 本研究は、愛知県がんセンター研究所・がん病態生理学分野と京都大学医学研究科遺伝薬理学ユニットの共同研究として行われました。
- 研究論文は、がん研究専門雑誌Cancer Scienceに令和元年6月18日にオンライン版で公開されました。
研究のあらまし
生体の腫瘍組織では、がん細胞は、さまざまな宿主由来の間質細胞と相互作用して、「腫瘍微小環境」を形成します。腫瘍微小環境の性質が、がん細胞の表現型に大きな影響を与えることが知られています。そして腫瘍微小環境に存在する間質細胞は、新規がん治療薬の創薬ターゲットになる可能性を秘めているため、多くの研究者や製薬会社が、その解析に取り組んでいます。
新規大腸がん予防・治療薬の開発を目指して、われわれは、大腸がんモデルマウスの腫瘍組織を解析したところ、甲状腺ホルモンの活性化に重要な役割を果たす2型脱ヨウ素酵素(DIO2)の発現が、がん細胞ではなくて、腫瘍組織の間質細胞で上昇することを見出しました(図1)。DIO2の阻害剤を投与すると、腫瘍成長が抑制されて、大腸がんモデルマウスの生存期間は延長しました。さらに臨床データを解析したところ、ヒト検体でもDIO2は、腫瘍細胞ではなくて腫瘍組織の間質細胞で発現していること見出しました。
研究内容
- 大腸がんモデルマウスの腫瘍組織をDNAマイクロアレイで解析したところ、2型脱ヨウ素酵素(DIO2)の発現上昇を認めました。レーザーマイクロダイセクションにて、腫瘍上皮と腫瘍間質を選別して解析したところ、腫瘍間質でDIO2の強い発現上昇が見出されました。In situ hybridization法により、DIO2 mRNAの組織内局在を確認したところ、腫瘍間質での発現が確認しました。
- 脱ヨード酵素の阻害剤として働くイオパン酸を、大腸がんモデルマウスに投与したところ、腫瘍成長が抑制されました。そして長期投与したところ、生存期間の延長も認めました。
- イオパン酸を投与された腫瘍組織を解析したところ、腫瘍血管の密度が減少していることを認めました。大腸がんでは、COX-2という酵素が腫瘍血管の増生に極めて重要な役割を果たすことがすでに知られています。腫瘍組織の連続切片を作製して、DIO2とCOX-2の発現パターンを比較したところ、COX-2陽性間質領域にDIO2陽性が含まれることが多いことがわかりました。大腸がんモデルマウスにCOX-2阻害剤を投与したところ、腫瘍組織のDIO2の発現上昇は抑制されました。この実験結果は、DIO2の発現がCOX-2の制御を受けていることを示唆します。
- ヒトの大腸がんデータを解析したところ、DIO2は大腸がん組織で発現が上昇すること、腫瘍組織間質細胞で発現されることを確認しました。更に詳しく解析すると、大腸がん組織において、DIO2の発現は、大腸腫瘍血管マーカー群と強い相関関係を有することを見出しました。
今後の展望
本研究では、甲状腺ホルモンの局所組織での活性化に重要な役割を果たすDIO2が腫瘍組織の間質で高発現して、腫瘍血管増生、腫瘍成長を促進することを見出しました。今後のより詳しい解析が必要ですが、さまざまな腫瘍組織でDIO2が腫瘍血管の増生に重要な役割を果たしている可能性があります。
欧米を中心とした疫学調査では、甲状腺疾患と大腸がん発生には、なんらかの関係があることが示唆されています。しかしながら、なぜ、甲状腺と大腸がんに関連性が発生するのかについては、謎とされていました。本研究の成果は、その謎の解明に資する可能性があります。
掲載論文
Kojima Y, Kondo Y, Fujishita T, Mishiro-Sato E, Kajino-Sakamoto R, Taketo MM, Aoki M. Stromal iodothyronine deiodinase 2 (DIO2) promotes the growth of intestinal tumors in Apc(Δ716) mutant mice. Cancer Sci. 2019 Jun 18. doi: 10.1111/cas.14100. [Epub ahead of print] (PMID: 31215118)