遺伝子病理診断部
令和8年6月改訂
概要
遺伝子病理診断部のページをご覧頂き有難うございます。遺伝子病理診断部は主に二つの診断業務(病理診断、分子診断・腫瘍遺伝子診断)を行っています。私たちは外来・入院部門を持たない特殊な診療科で、そのため、患者さんと直接お会いする機会はありませんが、診療科から私たちに提出される生検、穿刺吸引、手術の組織を通して、病気の確定診断となる病理診断を主治医に提供しています。
当院には全国から治療を受けるために多くの患者さんが来院されます。その際にも前の病院で作製された生検、手術の標本について当科の病理専門医が再評価しています。またセカンドオピニオン(別の医師の意見)をお聞きになりたい患者さん・ご家族には、診療各科を通じて、病理診断についての私たちの見解を述べさせて頂いております。
分子診断・腫瘍遺伝子診断では腫瘍のもつ分子異常、遺伝子異常を解析し診断します。これは今日がんの治療方針を検討する上で非常に有益な情報となっています。私たちは2000年に「固形腫瘍のDNA診断」の取り組みを厚生労働省認定の高度先進医療としてスタートさせて以来、現在年間3,000件の分子診断・腫瘍遺伝子診断依頼を受けています。現在では当院で行われるがん治療に関連する腫瘍分子異常の殆どが検査可能となっています。
2018年に当科と臨床検査部は、検査の品質と技術を保証する国際規格であるISO15189(臨床検査室の認定)を取得しました。精度の高い臨床検査を維持していくために私たちは今後も尽力して参ります。2019年には当院はがんゲノム医療拠点病院として認可され、当科はがんゲノム医療センターと連携しながら、がん遺伝子プロファイリング検査の実施を支えます。
最善の治療を受ける上で、確かな病理診断と精度の高い分子腫瘍診断は不可欠といえます。生検検査、外科手術で取られた組織や細胞は全て患者さんが検査や手術に伴う不安と痛みを乗り越えて得られたものであることを覚えます。この貴重な検体を使い、少しでも患者さん一人一人の治療に役立つ情報を見いだせるよう尽力して参ります。

細田 和貴 部長

当科はISO15189認定検査室です
臨床検査は病気の診断、治療や検診目的で行われる検査の一つです。患者さんから採取された血液、尿や組織などを分析・解析し、その結果を臨床の医師に報告します。信頼できる検査結果を得るためには、この検体採取から結果報告するまでの過程における操作の精度と正確性が重要です。この臨床検査の質と能力を客観的に評価するひとつの基準として国際規格「ISO15189(臨床検査室-品質と能力に関する特定要求事項)」があり、国内での取得施設が増えています。
ISO15189では検査室内の組織を構築し、日常の作業の曖昧な点を明確化し、文章化して業務の標準化を行います。この作業を通じて記録を残し追跡可能性や説明責任を果たすことが求められます。これらの要求基準を満たすことで、さまざまな改善を生み、結果としてリスクの軽減とコストの低減に繋がるとされています。当臨床検査室・病理検査室は平成28年年末から認定取得に取り組み始め、1年3か月をかけて準備してきました。その結果、平成30年3 月16日に認定承認を受けました。
愛知県病院事業庁 愛知県がんセンター 臨床検査部・遺伝子病理診断部 | 公益財団法人 日本適合性認定協会(JAB)
今後も「ISO15189」の要求事項を遵守し、がん専門医療施設の臨床検査を担う部門としてさらに質の向上に努めてまいります。
診療内容
病理組織診断
遺伝子病理診断部は病理検査と腫瘍分子検査の二つを業務の柱とし、ますます専門化するがん診療に不可欠な腫瘍の確定診断と組織分類、治療薬の効果予測因子や予後因子などの情報を診療科に提供しています。当科の理念は、病理診断と腫瘍分子診断の両方の情報を統合させ、分子生物学的根拠に基づいた病理診断と、病理所見に基づく適正な検体で行われる腫瘍分子診断を行うというものです。この二つの柱が確かなものとなって初めて正確かつ最適ながん治療を患者さんに提供できると考えています。

組織診
当科には年間約9,000件の病理検査依頼が出されます。その多くは診療各科で行われた生検検査や外科手術でえられた腫瘍組織の診断ですが、紹介元の病院で作製された病理標本の診断確認や追加検査も多くあります。診断依頼の大部分は腫瘍性疾患の確定診断ですが、腫瘍性でない(炎症性疾患など)という判断も重要です。また、悪性リンパ腫、骨軟部腫瘍、神経内分泌腫瘍、唾液腺腫瘍など、希少がんと呼ばれる頻度の低い腫瘍の診断依頼も年間800件あります。経験ある病理医が各々研究領域を持ちながら専門的かつ確実な診断を行うよう日々努力しています。
病理診断部門の業務は腫瘍診断に必要な専門的知識と技術を有する臨床検査技師が行っています。検体の固定、病理標本作製、術中凍結標本作製、免疫染色、Fluorescence in situ hybridizationなど多彩な病理検査に従事しています。
免疫染色、Fluorescence in situ hybridization (FISH)
免疫染色は抗体を用いて特定のタンパク質などの分子(抗原)を検出する染色方法、FISHは特定の核酸(遺伝子など)を蛍光色素を用いて検出しその分布や数を調べる方法です。いずれも分子レベルの遺伝子異常や細胞の分化を知る上で非常に有用な技術で、病理診断の領域においてもなくてはならない検査技術となっています。また治療の観点からも、治療薬の感受性や予後に関連するタンパク質の発現や遺伝子の異常をこれらの方法で解析することができます。更には原発不明がんとして紹介受診される患者さんにおいては、これらの染色技術を用いて原発巣の推定を行うことができます。
当科では約250種類の免疫染色用抗体、30種類のFISHプローブを整備し、細分化する腫瘍分類と高まるバイオマーカー検査のニーズに対応しています。
細胞診
診療各科から年間5,500件の細胞診検査依頼があります。当院の特徴として、陽性診断率が高く、その1/5が陽性もしくは偽陽性の症例です。紹介患者さんにおいては、紹介元の病院で作製された細胞診標本の再評価も行います。現在4名の細胞検査士が標本の作製からスクリーニングまで行っており、その殆どの症例は細胞診専門医によりチェックされ報告されます。この他、術中迅速細胞診診断、EUS-FNA・EBUS-FNA検査の迅速オンサイト細胞診(ROSE)にも従事しています。
迅速オンサイト細胞診(ROSE: rapid on-site evaluation)
細胞診検査士や病理医が穿刺吸引検査で採取された細胞をただちに染色して、目的の細胞が適切な量取れているかどうかを判断し、主治医に助言します。
何か良いのでしょう?
穿刺し、病気の部分に穿刺針が到達しているようにみえても、病気の組織から目的の細胞が十分量吸引されないことがしばしばあります。細胞がとれているかいないかは、一週間後の結果が出るまでわかりません。もし取れていない場合、もう一度細胞をとることになります(そして再トライしても、とれるかどうかはわかりません)。検査中に、細胞がとれているかどうかを病理医が助言できれば、再検査の可能性を少なくすることができます。それがROSE(ローズ)のサービスで、これにより再検査の可能性を下げることができます。当院では、主治医が細胞検査室に組織を搬送し、細胞検査士あるいは病理医が迅速染色法で細胞を染めて評価しています。
腫瘍分子診断
近年、がん研究は著しい進歩を遂げ、腫瘍がある種類の分子異常をもつと治療薬に非常によく反応し縮小することがあることが明らかとなってきました。特に、「分子標的薬」や「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる治療薬においては、治療の効きに関連する分子異常が数多く解明されています。また、肉腫や内分泌腫瘍、唾液腺腫瘍、一部の悪性リンパ腫などの「希少がん」と呼ばれる腫瘍では、腫瘍のタイプに対応した特有の分子異常があることもわかってきました。このような治療薬の感受性や抵抗性に関連する分子異常、希少がんにおける腫瘍特有の分子異常を調べることは、診断を行い、治療方針を立てる上で非常に有用です。遺伝子検査室ではこのような分子異常を数多く検査しています。特に当科の特徴である、病理診断部門の機能を生かすことで、より正確な病理診断を可能としています。この他、少量の生検サンプルから複数の項目の検査を行うことができる、適正な検体の選択により偽陰性(本当はあるはずの異常を陰性と報告する)を極力減らせる、などの利点があります。
遺伝子検査室では豊富な遺伝子解析の経験を有する臨床検査技師が勤務し、核酸の抽出から解析、データー管理まで行います。現在3名の遺伝子検査技師が従事しPCR、Sanger sequencing、Fragment length解析、NGS解析等を行っています。これらの検査業務はISO15189認定を受けた臨床検査室で行われます。
当科で扱う主な腫瘍分子検査
| がんの種類と検査項目 | 検査の目的 |
| 肺がんのEGFR, KRAS, BRAF遺伝子変異 | 治療薬の選択 |
| 肺がんのALK, ROS1, RET, NTRK1/2/3融合遺伝子 | 治療薬の選択 |
| 肺がんのMET exon 14 skipping変異 | 治療薬の選択 |
| 大腸がんのKRAS, NRAS, BRAF遺伝子変異* | 治療薬の選択、予後因子 |
| 乳がん、胃がん、唾液腺がんのHER2遺伝子増幅 | 治療薬の選択 |
| 膵腫瘍のKRAS, GNAS, CTNNB1遺伝子変異 | 膵腫瘍の診断 |
| 肝内胆管がんのFGFR2遺伝子再構成 | 治療薬の選択 |
| 乳がんのホルモン受容体(ER, PgR)発現 | 治療薬の選択 |
| 肺がん、頭頚部がん、胃がん、食道がん、乳がん、悪性黒色腫のPD-L1免疫染色 | 治療薬の選択 |
| がん種横断的MSI検査、MMR免疫染色 | 治療薬の選択、リンチ症候群のスクリーニング |
| High risk HPV検出(RNA-ISH) | 腫瘍の診断 |
| 希少がん | |
| 肉腫の融合遺伝子(FISH法, RT-PCR, NGSによる解析) | 肉腫の診断 |
| 脂肪肉腫のMDM2遺伝子増幅 | 肉腫の診断 |
| 骨・軟部腫瘍の遺伝子変異(CTNNB1, IDH1/2, H3.3A/B ) | 骨・軟部腫瘍の診断、予後因子 |
| 悪性リンパ腫の融合遺伝子(FISH法による解析) | 悪性リンパ腫の診断、予後因子 |
| 悪性リンパ腫の遺伝子変異 (BRAF, EZH2, MYD88, etc.) | 悪性リンパ腫の診断、治療薬の選択 |
| IGH, TCRG クローナリティー解析 | 悪性リンパ腫の診断 |
| その他 | |
| がんゲノムプロファイリング検査* | 治療薬の選択 |
| myChoice診断システム* | 卵巣がん、乳がんの治療薬の選択 |
| Oncotype DX * | 乳がんの再発リスク評価 |
*は外注検査
がんゲノム医療
個々の患者さんに最も適した治療を提供するがんの個別化医療の一つとして、2019年よりがんゲノム医療が開始されました。当科はがんゲノム医療においても重要な役割を担っています。がんゲノム医療で使用される遺伝子パネル検査は次世代シーケンシング技術と呼ばれる200~20,000遺伝子を一度に解析できる技術を用いて行う検査ですが、この検査はこれまでにない高い品質の検体が必要とされるのが特徴です。検査の成功のためには病理部における最適な試料の選択と検体の管理が重要です。
当科はがんゲノム医療センターと連携し、がんゲノム医療の適正な実施のために以下の役割を担っています。
- 試料の適正な固定と保存、管理
- 試料内の腫瘍量と腫瘍細胞含有比率の評価
- 試料が遺伝子パネル検査で解析可能か否かの判定(2020年度依頼件数:336件)
- 薄切病理標本の作製
- エキスパートパネル
スタッフ紹介
日本臨床細胞学会 細胞診専門医
日本臨床検査医学会 臨床検査専門医・臨床検査管理医
日本膵臓学会
日本癌学会
米国カナダ病理学会
日本臨床細胞学会 細胞診専門医
頭頸部癌学会
癌治療学会
日本臨床細胞学会 細胞診専門医
患者さんへのメッセージ
診療実績
2025年 診断実績
| 診療内容 | 件数 | |
|---|---|---|
| 病理組織診断 | 9,818 | |
| ・術中迅速診断 | 774 | |
| ・ISH検査 | 乳がん | 75 |
| サルコーマ、リンパ腫等 | 101 | |
| 診療内容 | 件数 |
|---|---|
| 細胞診診断 | 5,248 |
| ・陽性・偽陽性診断 | 1,460 |
| ・術中迅速細胞診 | 97 |
| ・ROSE(腹部) | 435 |
| ・ROSE(胸腔) | 83 |
| 診療内容 | 件数 |
|---|---|
| 腫瘍分子診断 | |
| ・乳がんバイオマーカー検査 | 716 |
| ・肺がん遺伝子検査 | 340 |
| ・大腸がん遺伝子検査 | 198 |
| ・臓器横断MMR, MSI検査 | 174 |
| ・膵がん遺伝子検査 | 273 |
| ・胃がんバイオマーカー検査 | 149 |
| ・頭頚部がんバイオマーカー検査 | 92 |
| ・悪性リンパ腫(IGH, TCRGクロナリティ検査) | 15 |
- 病理組織診断、細胞診診断の件数は外部施設からの受託検査を含む
- 主な腫瘍分子診断項目
- 乳がんバイオマーカー検査:HER2、ER、PgR、Ki-67、PD-L1免疫染色
- 肺がん遺伝子検査:Oncomine DxTT(46遺伝子パネル)、Standalone test(EGFR, ALK, ROS1, MET, RET, BRAF, KRAS, HER2), PD-L1免疫染色
- 大腸がん遺伝子検査:KRAS, NRAS, BRAF, HER2
- 膵がん遺伝子検査:KRAS, CTNNB1
- 胃がんバイオマーカー検査:HER2, CLDN18, PD-L1免疫染色
- 頭頚部がんバイオマーカー検査:HER2, Androgen受容体, PD-L1免疫染色