放射線治療部
令和5年7月改訂
概要
愛知県がんセンターの6代目の放射線治療部長を担当いたします古平 毅です。
当院は昭和39年開院以来放射線科として診断業務と治療部門を独立して業務を行ってまいりました。高橋信次先生が開発された当時としては画期的な高精度放射線治療である「原体照射法」を当初より臨床に応用し以来頭頸部がん、婦人科がん、前立腺がん、肺がん、食道がんなどに優れた治療効果と安全性を報告してきました。
最近では治療技術や計画コンピュータの革新的な進歩により三次元放射線治療や定位放射線治療、強度変調放射線治療などの高精度放射線治療は臨床に浸透していますが、これらの最先端の放射線治療の基礎は当院で長い実績をもつ原体照射法に端を発しているといっても過言ではありません。
当院は4名のスタッフ(放射線治療専門医4名)とレジデント2名が放射線治療専任で診療を行っており外部照射(リニアック 2台、ラディザクトⓇ 1台)、小線源治療(Rals マイクロセレクトロン 1台)、密封小線源治療 (イリジウム、ヨード)を主たる治療装置として年間900名程度の新規患者治療を行っております。頭頸部がん、子宮がん、肺がんなどの患者に他科との連携のもとで包括的ながんの治癒をめざした放射線治療を目的とした診療を行っています。
この紹介ページでは当院の特徴であるユニークな治療を中心に紹介させていただきより「質の高い治療」を希望されている患者さんやご家族の参考になりましたら大変うれしく思います。
古平 毅 部長
診療内容
強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy 以下IMRT)
当院では「原体照射法」という方法でがんの部分にあわせて放射線をあてる治療方法を採用して優れた治療成績を以前より報告してまいりました。昨今では治療装置の進歩や計画用コンピュータの革新的な進歩によりIMRTと呼ばれる治療技術が治療に用いられるようになっています。IMRTは「究極の放射線治療」と呼ばれ複雑な形状の病変に対してより正確な放射線投与が可能になると同時に周辺の正常組織の放射線を極めて少なくすることが可能になります。
現在の治療ではビーム方向が回転しながら治療を行う強度変調回転照射法(Volumetric Modulated Arc Therapy VMAT)が主流になっています。
当院では3台の治療機のラディザクトR(2019年より稼働)、トゥルービームR(2017年より稼動)、シナジーR(2012年より稼働)を用いてIMRTを行っています。いずれもVMATで照射時間が短いのが特徴です。トゥルービームRでは線量率が高いので治療時間がさらに短縮できます。またImage guided radiotherapy(IGRT)と呼ばれる治療機で撮影されるCT画像を利用した高精度の位置合わせのシステムを持っており高い治療精度を実現しています。当院では計画CT検査を撮影してから1-2週程度で治療を開始しています。IMRTの対象疾患は頭頸部がん、肺がん、食道がん、乳がん、前立腺がん、骨盤部のがん(肛門管がん、婦人科がん、膀胱がん)、肉腫などです。治療が可能であるかは担当医の診察によりご確認下さい。
ラディザクトⓇ
ラディザクトRはIMRTの専用機で当院では導入時期(ヘリカルトモセラピー)2006年時点では日本で4番目、都道府県がん診療連携拠点病院で初めて導入しました。この装置はリニアックで行うIMRTと比較して治療計画、計画の検証、位置確認の精度、治療手順などが大幅に省力化されるため治療実施が容易です。また通常の装置より広い範囲にたいして治療実施が可能です。当院では、頭頸部がんや骨盤へのIMRTを中心に年間150人程度のIMRTを行っています。
ラディザクトRはCT撮影装置を想起させるユニークな外観ですが、実際治療用の超高圧X線によるCT画像の撮影も行い正確な位置確認を行います。小型のX線発生装置が円周上を回転して一次コリメーターでスライス状に調整したビームを基準にして、マルチリーフコリメーターというピアノの鍵盤を思わせる金属ブロックの複雑な動きにより強度変調された緻密な放射線治療ビームを51方向から投射して複雑な高精度治療を行っていきます。
高精度治療可能な外部照射装置
2017年に「トゥルービームR」を導入し、さらに多くの患者さんに高精度治療を提供できる体制となりました。この治療装置の特徴のひとつは、従来の装置にくらべ高速にX線ビーム出力を行うため高精度治療にかかる時間を短縮し、患者さんの負担を減らし効率的に治療を行える点です。定位放射線治療の需要の増加にあわせ定位照射をより短時間に行える利点があります(定位照射の詳細は下記の該当部分を参照してください)。頭頸部がん、肺がんのIMRT,骨転移への定位照射を中心に治療を行っています。
2012/12に高精度放射線治療を行える外部照射装置シナジーRを導入しました。「ラディザクトR」同様、回転式IMRTで短時間での治療を可能とします。強度変調放射線治療は前立腺がんを中心に行っています。IGRTで治療直前にCT画像取得し、1mm以内の精度で位置補正し治療します。この装置のCT撮影では腫瘍の呼吸移動をモニターできる4DCTモードの位置合わせ機能があり、肺への定位照射でより精度の高い治療が可能です。
強度変調放射線治療の対象疾患
頭頸部がん
上咽頭がん、中咽頭がん、鼻腔・副鼻腔がんに対して手術で無く放射線治療で治癒を目指す場合(根治的放射線治療と呼びます)、IMRTはガイドラインで推奨されている標準治療です。上咽頭がんではIMRT使用で生存率も改善すると報告されています。これ以外にも進行した喉頭がん、下咽頭がんの根治治療、頭頸部がんの手術後の再発予防のための術後照射でも副作用を減らすため有効です。従来の放射線治療は視神経・視交叉、脳、脳幹、脊髄、唾液腺(耳下腺)、下顎骨、咽頭収縮筋(ものを飲み込むことに関係する筋肉)といった正常組織の放射線量の制限により治療が病変に十分に当てられない(治療効果が劣る)、あるいは重度のダメージが残る(副作用が強い)という限界がありました。IMRTを用いることで正確に十分量の放射線投与ができると同時に、正常組織の放射線を低く抑え安全な治療が可能になります。特に治療後の唾液分泌機能のダメージを大幅に減少させることはIMRTの最大の利点です。これまでがんが治癒した後に患者さんを苦悩させていた重度の口の渇きを大幅に改善させることが可能になりました。
頭頸部がんのIMRTは治療計画が複雑であるため治療経験によって効果や安全性に影響があると報告されています。当院では2006年6月より治療を開始し2022年末まで1583例の治療を行っています。全治療機でIMRTを行う体制になりより多くの患者さんへ良質な治療を提供できる様になりました。当院の経過観察中の患者さんでは唾液腺への放射線を減少させたことにより半年から1年経過した時点で唾液腺機能が明らかに改善されていることが確認されています。
上咽頭がんの治療例
上咽頭がんにIMRTを用いることで近くにある耳下腺(黄矢印)の線量を半分以下に抑え、唾液分泌機能を守ることができます。脳や脳神経、視神経など(赤矢印)を守りながら病気に十分な放射線治療をおこなうことができます。
前立腺がん
高齢化やPSA検診の浸透により前立腺がんと診断される患者さんは増加しており放射線治療を受ける患者さんが多くなっています。IMRTは前立腺の周囲の膀胱や直腸のダメージを最小化するため副作用を増やすことなく十分な放射線を前立腺がんの病変に投与することが可能になります。泌尿器科との共同で適切なホルモン療法を併用しIMRTを行っています。2022年末まで895名の前立腺がんの患者さんへ根治的なIMRTを行いました。膀胱や直腸の形状により前立腺は体内で移動しますので同じ患者さんでも日々その位置が変わります。IMRTは緻密な放射線の分布を作成して投与するため緻密な位置照合を行って初めて「正しく治療が行えた」といえます。
現在大部分の患者さんは4週20回(土日祝日を除き週5回)で通院で照射を行います。
なお手術後のPSA再発にも全例IMRTで治療を行っています。こちらは約8週37回で治療を行います。
また近年では遠隔転移がある患者さんにも前立腺に中等量の放射線治療を追加し予後が延長したとの報告があり、放射線治療の適応を広げています。この場合はIMRTを使用できませんが高精度の三次元照射で安全に治療を実施しています。
(左図)直腸内のガス(矢印)により放射線をあてる標的の位置(青点線)がずれてしまっているため、処置をおこないガスを排出後に適切な位置関係を確認して治療を行った(右図)
IMRT治療前に必ずCT画像を撮影し前立腺の位置だけでなく、膀胱・直腸との位置関係を毎回確認し高いレベルでの「正確な位置合わせ」を行っています。
III期肺がん
多くの肺がんは発見時に手術が困難な進行がんの状態で見つかります。肺および胸部リンパ節に限局していれば(臨床病期Ⅲ期)放射線治療と薬物療法の併用で治癒を目指すことが可能です。非小細胞肺がんというタイプのⅢ期肺がんには放射線治療と抗がん剤を同時併用し、治療後に免疫チエックポイント阻害剤(デュルバルマブ)を地固め療法で使用する方法が標準治療です。これまでは病変範囲が広いと肺の放射線量が増え放射線肺炎が問題になるため、Ⅲ期肺がん20%程度の患者さんは放射線治療を行えませんでした。現在ではIMRTで肺への放射線のダメージを大幅に減少できるので、放射線治療が実施できる割合が増えました。呼吸移動が大きいとIMRTの精度が不良になるので、当院では呼吸運動を抑える工夫をして治療計画を行います。免疫チエックポイント阻害剤も薬剤性肺臓炎のリスクがあるのでIMRTを使うことで免疫チエックポイント阻害剤もより安全に投与できると考えています。海外の最近の報告では,この併用療法で5年で約4割の患者さんが生存したと報告され治療成績は目覚ましく改善しています。
右肺に大きな腫瘍があり(黄矢印)左頸部にリンパ節転移(赤矢印)のある肺がんのIMRTの線量分布図です。必要な部分に放射線を集中させるので、肺の放射線量を大幅に減らします。(橙矢印)
IMRTにより進んだ肺がんにも安全に放射線治療ができる患者さんが増えています。
膀胱がん
当院では泌尿器科と共同して筋層浸潤のある膀胱がんの一部の患者さんに膀胱温存療法を実施しています。腫瘍が単発で5cm程度までの場合に適応があります。(泌尿器科で膀胱温存療法が実施可能かどうか慎重に判断します)。膀胱温存療法はTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)で腫瘍を減量してから、全膀胱にIMRTで5週間20回の放射線治療をおこないます(週4回)。照射は排尿後に実施し、毎回治療前に治療装置でCT撮影をして膀胱の状態を確認し正確に放射線治療を行います。右図にIMRT線量分布図を示します。膀胱の形にあわせて正確に放射線が投与され、膀胱後方の直腸や頭側の小腸の放射線を十分おさえています。
乳がん
通常、乳房温存手術後は乳房全体に放射線治療をおこないます。また乳房切除術を行った患者さんで再発リスクが高い場合は胸壁(乳房を切除した胸部の皮膚全体)と頸部リンパ節に放射線治療を行います。これらの治療は通常三次元照射で乳房や胸壁には斜2方向から放射線を当てます。
最近は乳がん手術方法選択肢が増加し、腋窩リンパ節の郭清手術のかわりに放射線治療を行う機会が増えました。三次元照射法を用いることもありますが、腋窩リンパ節領域を十分カバーし肩関節(黄矢印)や肺(赤矢印)の放射線量を減らす場合IMRTが有効です。内胸リンパ節(胸骨の内側)を含める場合も反対側の乳腺への影響を減らすためIMRTを使用します。左乳癌で温存療法では深吸気息止照射法をもちいて心臓線量をへらしていますが、乳房切除術後に頸部から胸壁への放射線治療で心臓線量を減らす必要がある場合はIMRTを使用します。
定位放射線治療
転移性脳腫瘍に対する定位照射
定位照射とは一回に多くの放射線を集中してかける方法です。短期間で治療が終わり病気の部分に放射線が集中するためより有効で副作用の少ない治療が可能になります。正常脳実質に余分な放射線をかけないことから大脳機能へのダメージ(記憶力低下等)を減らすことが期待できます。当院では主にトゥルービームRを用い転移性脳腫瘍の定位照射を行っています。治療毎に撮影する内蔵CTで1mm以下の誤差で正確な位置合わせ後に治療します。当院では1-5回に分割した方法で治療しますのでガンマナイフの対象を外れたサイズの大きな腫瘍や、病変位置で危険性が高いためガンマナイフが行えない患者さんも治療可能です。リニアックによる定位照射の治療効果はガンマナイフと同等で保険適応になります。
近年では小さい腫瘍なら10-15個程度までの脳転移に対しても定位照射を適応するようになりました。多数個の治療も一連で照射実施ができるのでガンマナイフより短時間で治療できます。1回の治療時間は約15分(照射時間は3分程度)で病院の滞在時間は1時間未満です。同じ施設内で治療のため利便性が高く、必要な薬物療法(抗がん剤、分子標的療法、免疫チェックポイント阻害剤)が速やかに開始できる利点があります。ガンマナイフと異なりマスク固定は痛くないため麻酔薬は不要で、通院で治療される患者さんもいます。
トゥルービーム®︎が導入されてから脳転移の定位照射件数は顕著に増えています(図)。当センターでは脳神経外科医や薬物療法専門医と連携して、放射線治療だけでなく、手術や薬物療法、あるいはその組み合わせを検討して最適なな脳転移治療の提供を行っています。
体幹部腫瘍(肺・肝臓)に対する定位照射
早期肺がんへの体幹部定位放射線治療は高齢者や内科的合併症を有する患者さんに実施され、手術に遜色ない治療成績が報告されています。早期肺がんのほか肺以外に病変がない転移性肺腫瘍も治療可能です。肺の定位照射では、患者さんの体輪郭にあったクッションで身体を固定し、治療装置に内蔵されている確認用CT(IGRT)で確認し中心位置は5mm以内の位置精度の管理下で行います。小病変にピンポイントに集中して大線量の放射線を正確に当てます(右図)1回40-60分程度の治療を、合計4回程度行います。治療中はほとんど副作用がでることはありません。肺病変に対する体幹部定位放射線治療はいずれも保険診療の治療です。
また原発性肝腫瘍、肝臓以外に転移がない転移性肝腫瘍も体幹部定位放射線治療の適応です。2020年からは5個までの少数個に限定した転移病巣(オリゴ転移)に対し体幹部定位放射線治療が適応されました。オリゴ転移に対しては薬物療法に加え定位照射を併用し生存率が改善したという報告があり、条件が合致する患者さんに適応を考慮しています。
転移性脊椎腫瘍
全身の骨転移は薬物療法が中心の治療になります。一部の骨転移は強い痛みを伴い、骨折による身体能力低下や腫瘍圧迫で脊髄麻痺などを起こすことがあります。骨転移の疼痛は放射線治療が有効で70%程度で痛みの緩和がえられます。骨折や麻痺への治療も有効ですが、リスクが高い場合は脳神経外科との連携で固定術を先行し術後に放射線治療を行います。近年有効な薬物療法の出現で骨転移を有する患者さんの予後が改善しており、長期生存の患者さんでは、骨転移の症状が再増悪する場合が増えています。5cmまでの脊椎転移に体幹部定位放射線治療が2020年から保険収載され、当院では再照射として体幹部定位放射線治療をしたり、脳神経外科で減圧・固定術を行い術後照射で体幹部定位放射線治療を行います。骨転移がオリゴ転移の場合に局所制御により生存率の改善も期待されるので初回治療で行う場合もあります。当センターではこれまでに140件の脊椎転移にたいする体幹部定位放射線治療を実施し、高い有効性と安全性を確認しています。
骨転移定位照射の線量分布図。左は横断像、右は矢状断像(縦わり)
元々白く映る骨が灰色に変化しているがんの部分に強く放射線が照射される範囲で(赤い部分)きれいに包み込んでいて、脊椎中央にある神経(脊髄)への照射線量は十分に低減できています。このような技術を用いる事で安全な再治療が施行可能となります。
治療各論
当院では多くの疾患にたいしての放射線治療を行っていますが当院で行われている具体的な治療を中心に紹介します。
頭頸部がん
頭頸部がんとはのど(咽頭・喉頭)、舌、口腔、鼻腔、副鼻腔、唾液腺、甲状腺などにできるがんの総称です。このうち放射線治療の対象になるのは扁平上皮がんというタイプの組織の病気が中心になります。頭頸部がんは病気のできる部位が発声、嚥下(水や食べ物を飲み込むこと)、呼吸機能などの重要な機能を担当する臓器であることに加え、顔やその近くにできる病気ですので病気や治療により美容的な問題が生じます。放射線治療は臓器機能や形態を温存して治療ができますので患者さんへの肉体的・精神的な負担が少ない治療ができるという大きな利点があります。
病気のできる部位により放射線の効き目に違いがあることや、進行したがんで見つかることも多く、薬物療法(全身化学療法や動注化学療法、分子標的薬などの新規薬剤など)を加えた治療で有効性を高くしたり、手術との併用療法でより確実性をましたりすることも必要です。当院では頭頸部外科・薬物療法科と緊密な連携を行い病気の状態に合わせて適切な治療を行うようにチーム医療を積極的に行っています。
当院では頭頸部がんに関して高精度な治療法の選択が可能であり、頭頸部がんの治療に関しては本邦でもトップレベルにあると自負しています。
子宮頸がん
子宮がんには大きく分けて子宮頸がんと子宮体がんがあります。子宮頸がんの多くは扁平上皮がんというタイプのがん細胞からなるものが大半で、これは放射線治療に良く反応するので放射線治療のよい対象となります。子宮頸がん(扁平上皮がん)は外部照射と腔内照射(子宮内部から小線源という放射性物質を用い放射線をあてる治療法)の組み合わせで治療され、放射線で病気を治すことが得意な病気の代表的なものです。
早期がんでは手術と治療成績に差が無いと考えられています。一方手術では治すことの困難な進行がんでも他に転移がなければ半数以上が放射線で治癒することができると考えられています。最近では化学療法の併用で進行がんの治療成績も大幅に改善しています。
当院では進行がんに対し化学放射線療法を行うことで優れた治療効果を経験し、国内外での報告を数多く行っています。最近の当院の化学放射線療法による治療成績では、III期の進行がんの5年生存率が8割程度と優れた結果を報告しました。
このように当院ではいろいろな治療の選択肢が可能なので患者さんの体力、年齢、希望や病気の状況を総合的に判断して放射線腫瘍医、婦人科医と話し合った上で治療方針を決定するようにしています。
腔内照射の模式図。子宮の内部まで線源挿入用のごく細い金属製の筒(タンデムアプリケータ)と腟上部に筒型の器具(オボイドアプリケータ)を挿入し、それらの内部に密封小線源を挿入し、がんの内部から集中的に病気に大量の放射線をかけることができる。
以前は小線源治療では腫瘍や周囲の正常組織への放射線量はおおまかな評価しか出来ませんでしたが、2015年5月から導入した新規装置で画像誘導小線源治療(image-guided brachytherapy;IGBT)が可能になりました。投与される放射線量がCT画像上に立体的で正確に表示され、必要に応じて細かく調整することも可能になり、より正確で安全性の高い治療が可能になりました。
実際の子宮がん患者さんのMRIの画像。左図が治療前、赤丸内の灰色の部位のがんの組織が、治療後(右図)では完全に消失していることがわかります。
子宮がん術後照射へのIMRTの適応
手術結果で再発リスクが高い場合、術後に骨盤照射を追加します。再発を減少させる一方で放射線治療により晩期毒性である腸閉塞、下腿浮腫、膀胱炎、直腸炎、骨障害が増加する欠点が生じます。IMRTを用いることで余剰の放射線被曝を減少でき、より安全な治療が可能になります。図では赤く囲われたリンパ節領域に必要な量が集中して照射されている事が判ります。
前立腺がん
近年前立腺がんと診断される方が増えています。採血でPSA(前立腺特異性抗原)を測定することにより発見率が上がったこと大きく影響していると考えられています。
前立腺がんには手術や内分泌療法を含め多くの治療法がありますが、病気の状況や体の状態により最適な治療法は異なります。当院では前立腺がんの患者さんはまず泌尿器科を受診して頂き、必要な検査を行った上で最適な治療法を検討するシステムを取っています。
前立腺がんは放射線感受性が低いので多くの放射線をあてないとがんを抑えることが困難ですが、隣接する膀胱や直腸には安全に放射線をかけられる限度があるため従来の方法では必要量の放射線を十分に投与することは困難でした。放射線治療装置の進歩や治療技術の向上により、放射線治療は近年有用な治療法として脚光を浴びています(IMRT 前立腺がんの章を参照ください)。
放射線治療にも色々な種類があり、一般的には手術も適用可能な比較的早期の病変に対しては小線源治療が、比較的進行している場合は体外から放射線を病巣めがけて照射する外部照射(IMRT)が適用されます。
小線源治療には低線量率と高線量率の二種類がありますが、当院では2006年8月から低線量率組織内照射装置を導入し治療を行っています。低線量率組織内照射法は、I-125(放射性ヨウ素)を密封した太さ約1mm、長さ約5mmほどの小線源を数十本前立腺内に針を使用して埋め込み、前立腺の内部から放射線を照射する治療法です。当院では、まず一泊入院で前立腺の大きさや形態などを検査し、必要な線源の量や適切な線源配置を割り出します。この結果に従って線源を用意し、実際の治療の時は3泊4日の入院で線源留置を行います。線源留置後は1年間はある程度の制約がありますが、ほとんど普通の生活が可能です。この方法は治療期間が短く、他の治療法に比べて副作用が少ないという利点があります。副作用としては排尿困難や残尿感、頻尿などがあります。
低線量率組織内照射の実例。前立腺の辺縁部に小線源を留置して内部から照射します。画像中央付近の白く写っているたくさんの粒状のものが小線源です。
その他
食道がん、肺がん、乳がん、悪性リンパ腫の多数の症例で放射線治療を行っており、これらの治療件数も全国有数の実績を示しています。各科とのカンファレンスで治療方針を決定していきながら「標準的ながん治療」の理念の上に質の高い臨床を患者さんに提供することを常に心がけております。
新たな治療技術開発には臨床試験による高いエビデンスの創出が重要です。これらの過程をへて医療の進歩が達成されてきました。当部ではJCOG,WJOG,JGOG,JROSGなどの多くの臨床試験グループに所属しており、臨床研究に参加し数多くの症例登録を行うだけでなく頭頸部がんを中心とした臨床試験を実際運用する研究者としても積極的に臨床研究へ取り組んで参りました。また厚生労働省、文部科学省の班研究などの研究者として研究活動を通じて、治療技術の開発や放射線治療精度の向上に意欲的に取り組んでいます。
スタッフ紹介
研修指導医
日本医学放射線学会 特任理事
日本放射線腫瘍学会 理事
高精度放射線外部照射部会 常任幹事
日本癌治療学会 代議員
日本頭頸部癌学会 理事
日本食道学会 評議員
日本婦人科腫瘍学会 評議員
研修指導医
研修指導医
研修指導医
技師スタッフ
- 治療専属診療放射線技師 11名
- 医学物理士 4名
- 放射線治療品質管理士 5名
- 日本放射線治療専門放射線技師 4名
- 第1種放射線取扱主任者 4名
- 看護師3名
- がん放射線療法看護認定看護師2名(外来に1名)
外来診療担当医
月 | 火 | 水 | 木 | 金 |
---|---|---|---|---|
古平(初診) 立花(再診) 小出(再診) | 古平(再診) 立花(初診) 小出(再診) 橋本(再診) | 立花(再診) 古平(再診) 橋本(初診) 小出(再診) | 古平(再診) 小出(初診) 橋本(再診) | 立花(初診) 小出(初診) 橋本(初診) |
患者さんへのメッセージ
診療実績
原発部位別 新患照射実績(人数)
原発部位 | 2012年度 | 2013年度 | 2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
頭頸部 | 145 | 149 | 141 | 178 | 169 | 176 | 175 | 165 | 157 | 171 | 155 |
脳 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 2 |
肺 | 126 | 136 | 141 | 169 | 175 | 152 | 172 | 176 | 149 | 157 | 140 |
乳腺 | 186 | 190 | 186 | 199 | 174 | 152 | 175 | 154 | 153 | 161 | 135 |
食道 | 100 | 87 | 86 | 80 | 69 | 80 | 95 | 92 | 74 | 65 | 67 |
胃 | 17 | 14 | 23 | 21 | 14 | 10 | 16 | 28 | 30 | 23 | 29 |
腸 | 33 | 29 | 28 | 27 | 23 | 27 | 26 | 35 | 40 | 46 | 45 |
肝臓・膵臓・胆道 | 28 | 38 | 31 | 18 | 25 | 23 | 35 | 27 | 27 | 24 | 36 |
女性性器 | 42 | 46 | 53 | 53 | 42 | 66 | 85 | 64 | 48 | 60 | 64 |
泌尿器・男性性器 | 90 | 116 | 75 | 92 | 67 | 50 | 63 | 66 | 54 | 56 | 41 |
骨軟部 | 14 | 12 | 12 | 15 | 21 | 17 | 27 | 29 | 38 | 31 | 18 |
皮膚 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
小児腫瘍 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
血液 | 5 | 27 | 19 | 24 | 23 | 21 | 25 | 34 | 28 | 22 | 24 |
その他 | 27 | 23 | 24 | 24 | 24 | 13 | 12 | 12 | 9 | 12 | 12 |
計画数 | 1,240 | 1,416 | 1,338 | 1,546 | 1182 | 1130 | 1341 | 1336 | 1169 | 1118 | 1053 |
新患者数 | 813 | 867 | 819 | 904 | 849 | 806 | 911 | 878 | 819 | 851 | 784 |
特殊治療(患者数)
2012 年度 | 2013 年度 | 2014 年度 | 2015 年度 | 2016 年度 | 2017 年度 | 2018 年度 | 2019 年度 | 2020 年度 | 2021 年度 | 2022 年度 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
術中照射 | 16 | 19 | 17 | 11 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
全身照射 | 1 | 0 | 2 | 0 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 |
定位放射線照射 | 17 | 21 | 26 | 27 | 31 | 25 | 93 | 105 | 67 | 97 | 94 |
強度変調放射線治療 | 146 | 192 | 186 | 188 | 207 | 174 | 202 | 184 | 212 | 273 | 267 |
小線源治療 | 20 | 12 | 13 | 10 | 15 | 11 | 8 | 3 | 8 | 8 | 6 |
腔内照射 | 14 | 14 | 14 | 17 | 28 | 30 | 36 | 31 | 20 | 21 | 23 |
IMRT件数
2012 年度 | 2013 年度 | 2014 年度 | 2015 年度 | 2016 年度 | 2017 年度 | 2018 年度 | 2019 年度 | 2020 年度 | 2021 年度 | 2022 年度 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
頭頚部 | 2219 | 2891 | 3238 | 3360 | 4427 | 3936 | 3811 | 5092 | 4157 | 5323 | 4982 |
前立腺 | 2517 | 3155 | 2082 | 2455 | 2053 | 1474 | 2061 | 1690 | 2225 | 1294 | 1122 |
その他 | 91 | 257 | 177 | 191 | 394 | 466 | 1132 | 1453 | 2615 | 4508 | 5743 |
全件数 | 4827 | 6303 | 5497 | 6006 | 6874 | 5876 | 7004 | 8235 | 8997 | 11125 | 11847 |
研究実績
最近5年間の業績
2017年度
- 学会発表 53件 論文(英文12編、和文41編)
- 学会誌発表 31件 論文(英文18編、和文13編)
2018年度
- 学会発表 50件 論文(英文9編、和文41編)
- 学会誌発表 19件 論文(英文10編、和文9編)
2019年度
- 学会発表 56件 論文(英文6編、和文50編)
- 学会誌発表 19件 論文 (英文13編、和文6編)
2020年度
- 学会発表 37件 論文(英文32編、和文5編)
- 学会誌発表 20件 論文(英文19編、和文1編)
2021年度
- 学会発表 32件 論文(英文18編、和文14編)
- 学会誌発表 31件 論文(英文28編、和文3編)
基礎研究
厚生労働科学研究委託費(革新的がん医療実用化研究事業)
R4-R6 革新的がん 頭頸部癌化学放射線療法における予防領域照射の線量低減に関するランダム化比較試験
R5 革新的がん 進行頭頸部がんに対する術後補助療法の標準治療確立のための多施設共同研究
日本学術振興会(科学研究費助成事業)
2023~2025年度科学研究費助成金 若手研究
胸部X線深層学習モデルによる乳癌放射線治療の計画線量予測とその応用
治験・臨床試験
- JCOG1008 局所進行頭頸部扁平上皮癌術後の再発ハイリスク患者に対する3-Weekly CDDPを同時併用する術後補助化学放射線療法とWeekly CDDPを同時併用する術後補助化学放射線療法に関するランダム化第Ⅱ/Ⅲ相試験
- JCOG1208 T1-2N0-1M0中咽頭癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)の多施設共同非ランダム化検証的試験【研究計画書ver.1.2.0 説明文書ver.1.2.0】
- JCOG1212 局所進行上顎洞原発扁平上皮癌に対するCDDPの超選択的動注と放射線同時併用療法の用量探索および有効性検証試験
- JCOG01402 子宮頸癌術後再発高リスクに対する強度変調放射線治療(IMRT)を用いた術後同時化学放射線療法の多施設共同非ランダム化検証的試験
- JCOG1408 臨床病期IA期非小細胞肺癌もしくは臨床的に原発性肺癌と診断された3cm以下の孤立性肺腫瘍(手術不能例・手術拒否例)に対する体幹部定位放射線治療のランダム化比較試験【研究計画書ver.1.4.0】
- JROSG 前立腺癌に対するIMRT/IGRT併用寡分割照射法の第Ⅱ相臨床試験
- JCOG1904 Clinical-T1bN0M0食道癌に対する総線量低減と予防照射の意義を検証するランダム化比較試験
- JCOG1912 頭頸部癌化学放射線療法における予防領域照射の線量低減に関するランダム化比較試験
- JCOG2011 High volume転移を認める内分泌療法感受性前立腺癌患者に対する抗アンドロゲン療法への局所放射線治療併用の意義を検証するランダム化第III相試験
- JROSG17-5 前立腺がんに対する強度変調放射線治療の多施設前向き登録【研究計画書第1.20版】
- JROSG 18-2 進行頭頸部扁平上皮癌に対する緩和的寡分割放射線治療(QUAD Shot)の有効性を調べる多施設前向き観察研究Multicenter prospective observational study on the effectiveness of hypofractionated palliative radiotherapy for advanced head and neck squamous cell carcinoma【研究計画書ver.2.3】
- 化学放射線療法を受ける頭頸部癌患者における放射線皮膚炎に対する基本処置とステロイド外用薬を加えた処置に関するランダム化第3相比較試験【研究計画書Ver3.1】