診療科・部門

緩和ケア部

​令和4年4月改訂

概要

緩和ケアとは、病いにかかった患者さんやご家族の様々な苦痛(痛み、息苦しさ、吐き気、だるさなどのからだのつらさや、不安、気がかりなど気持ちのつらさ、等)をお薬だけでなく様々な方法で和らげ、暮らしやすくするための医療・ケアです。緩和ケアは、特別なものではなく、医療・ケアの根本ですので、どの診療科、どの職種でも基本的には提供できるものです。(当院では、ほぼ全ての医師はこの「基本的緩和ケア」の提供者としての知識等をみにつけるための「緩和ケア研修会」を修了しております。)ただし、それでもなかなか和らがない苦痛に対しては私たち緩和ケアの専門家が対応します(これを私たち「専門的緩和ケア」と呼んでいます)。

緩和ケアでは、(1)各種症状の緩和、(2)心理社会的サポート、(3)意思決定に関する支援等を皆さんと一緒に考えながら工夫します。内容は多岐にわたりますので、医師だけでなく、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、リハビリスタッフなど様々な職種が知恵を出し合いながら、皆さんの苦痛を和らげるお手伝いをします。この緩和ケアを専門としている医師の部門が緩和ケア部です。

下山 理史 部長

診療内容

緩和ケア部では、毎日の外来診療(初診、再診の診療およびセカンドオピニオン)と入院診療(緩和ケアチーム活動が中心、緩和ケア病棟は現在ありません)を行っています。

それらの診療にて行っていることは、私たちは、患者さんが、病をわずらっていてもその人らしくよりよく暮らせるように、より楽に治療を受けられるようにするために、まずはなによりも、困りごとをお聴きし、一緒に知恵を絞ることです。

緩和ケアの対象となるさまざまな症状の例

からだの痛み

まさに、体の痛み、吐き気、おなかの張り、息苦しさ、咳、体のだるさなど

気持ちの痛み(精神的な痛み)

不安、気がかり、抑うつ、不眠、せん妄など

暮らしの中での痛み

日々の生活上の問題、仕事、お金、家族などの問題など

「なぜ私が?」「どうして?よりによって…」と問うような痛み

やるせなさ、孤独感、虚無感、理不尽さ、今までできていたことができなくなったことなどによるつらさ、など

各種症状の緩和

その方法は、痛みや気持ちのつらさなどに対するお薬の調整だけにとどまらず、生活上の様々な工夫や社会資源を上手に利用した生活上の知恵を一緒に考えることも含んでいます。また、なぜよりによって私が?どうして私が?といったなかなか答えの出ないような問い(いわゆるスピリチュアルペイン)などに対しても、ともに悩みともに考えます。

病状等の理解の促進や対処法の工夫

どうしても病気の診療において、主治医などの担当者と十分な時間を割いて話し合いをすることができない場合も多く見られます。そんなときは、その内容をもう少しよく理解するために、あるいは、これからその話し合いを踏まえて自分がどうしていったらよいのか、などといった理解をより深めるための話し合いも場合によっては行います。また、様々な状態・場面における対処の方法を一緒に考えます。

家族ケア

誰かが病気になれば当然ご家族も心配になったりしんどい思いをすることもあるかもしれません。私たちは、患者さんだけでなくご家族や大切な方も同じように、緩和ケアの対象者だと考えています。ですから、ご家族の悩み、苦しみも一緒にお聴きしながら、その苦しみを和らげるために様々な方法をご本人や主治医・担当医をはじめとするスタッフと一緒に考えます。ご家族といっても、必ずしも成人した家族とは限りません。お子さんだってつらい思いをしていたり、もしかしたら(お子さんに病気のことを伝えていなければ)どうして自分には何も言ってくれないんだろう?私のことは家族の一員だと思ってくれていないんじゃないかな?と思って寂しくなることもあるかもしれません。私たちはお子さんのこともケアしますし、家族にどうやって病気のことやこれからのことを伝えればいいんだろうという悩みなども一緒に考えます。

療養に関する選択等

時には、治療や療養についてどのように治療を受け、どこでどのように暮らせばいいのだろう、どのように治療法や療養場所を選択したらいいんだろう、とか、どうやって決めればいいんだろうと悩むこともあるかもしれません。そんな時も、一緒に考え、より良い選択をすることが出来るお手伝いもしています。もちろん、積極的治療が終了したあとも、緩和ケアだけはずっと変わらずみなさんのサポートをさせていただきます。

地域緩和ケア連携

患者さんもご家族も、普段は住み慣れた家で暮らし、病気の治療のために、病院やクリニックに通院されています。しかし、しんどいときに通院するのには骨が折れます。そこで、しんどい時に病院まで訪れなくても初期対応を受けることができるような、病院と自宅と地域の医療介護機関などが連携して治療・ケアにあたるような取り組みをしています。

従来は、緩和ケア=ホスピスケア、終末期ケア(エンド・オブ・ライフ・ケア:EOLケア)などと考えられていました。この時期のケアが緩和ケアの根幹にあることは、言うまでもありませんが、実際には、疾患の経過における様々な時期に生じる苦痛に対応して適宜緩和ケアは提供されています。もちろんその対象となる方は、必ずしもがんにかかった患者さん・ご家族・大切な方々だけでなく、いわゆるがん以外の疾患をもつ患者さんやその大切な方々(重い心臓の病や神経難病、腎臓病、救急疾患など様々な病いでご苦労なさっている患者さん・ご家族)まで多岐にわたっています。がん以外の疾患では使える薬などに限りがあるものの、緩和ケアそのものに関しては、がんの患者さん同様に受けることが可能です。なお、現在がん診療においては、日本では世界に類をみない「診断時からの緩和ケア」が提供されるべく、取り組まれています。

愛知県がんセンターは、都道府県がん診療連携拠点病院の指定を受け、愛知県における中心的ながん診療機能を果たす役割を担っております。緩和ケアにおきましても、院内はもちろんのこと、県内外の様々な医療介護機関と連携をとりながら、患者さんおよび家族の皆さんの療養・生活における様々な苦痛の軽減とともに、療養生活の質が維持され、また向上するために、皆さまのお役にたてるよう日々取り組んでいます。

当院の緩和ケア提供体制

緩和ケア部<緩和ケアチーム<緩和ケアセンターという枠組みとなっています。

ごく簡単に説明すると、以下のようになっています。

緩和ケアセンターは、緩和ケアチーム、緩和ケア専門外来、各地の緩和ケア病棟や地域の医療介護福祉機関等との連携等を有機的に行うための院内組織です。これは、都道府県がん診療連携拠点病院の要件において、組織上明確に位置づけることとなっております。

緩和ケアチームは、「緩和ケアを専門とする医師、看護師等を含めたチームによる緩和ケアの提供体制」を指し、以下の 2 項目を満たす場合に緩和ケアチームとしています。

  1. 緩和ケアチームに身体症状担当および精神症状担当の常勤医師が 1 名以上配置され、緩和ケアを専門とする看護師(緩和ケア認定看護師、がん性疼痛看護認定看護師、がん看護専門看護師など)が所属している。
  2. 紹介患者の身体的・精神心理的・社会的・スピリチュアルな苦痛を包括的に評価し、必要に応じて疼痛・身体症状の緩和に関する専門家や精神症状の緩和に関する専門家、またソーシャルワークの専門家や緩和ケアを専門とする薬剤師、管理栄養士、リハビリスタッフ等と協力する体制がある(ペインクリニック、サイコオンコロジーなど特定の領域に限って対処しているのではなく、患者の苦痛すべてに対応が可能)。

チームの役割

  1. 痛みやその他の身体的な症状の軽減と精神的、社会的、スピリチュアルな問題への支援を行い、安全かつエビデンスに基づく質の高いケアの提供を心がける。
  2. 患者・家族とのコミュニケーションを通して患者・家族の治療や療養に関する意思決定を援助する。
  3. 人生の最終段階における鎮静(セデーション)や輸液・栄養療法の適応などに関連して倫理的な側面から専門的助言を行う。
  4. 家族ケアは患者療養の全経過を通して行う。特に人生の最終段階期においては家族等に対して適切なケアも行う。
  5. 垣根のない多職種での話し合いやチーム・ミーティングを通して医療従事者の支援も行う。
  6. 継続的な緩和ケアを行うために地域の病院・診療所・施設等との連携を図る。
  7. 医療従事者に対し緩和ケアの知識と技術の普及に努める
  8. 医療者のケアも行ったり、倫理的ジレンマについてともに考える。

スタッフ紹介

下山 理史 (しもやま さとふみ)
役職
緩和ケア部部長 兼 緩和ケアセンター長
学会・資格
日本緩和医療学会 認定医・理事
日本サイコオンコロジー学会 代議員
コミュニケーション技術研修会 認定ファシリテーター
日本外科学会 認定登録医
日本消化器外科学会 消化器外科治療認定医
日本がん治療認定医機構 認定医
がん診療に携わる医師のための研修会 指導者
日本緩和医療学会
日本サイコオンコロジー学会
日本死の臨床研究会
日本癌治療学会
日本臨床腫瘍学会
日本臨床倫理学会
日本外科学会
日本消化器外科学会
日本口腔ケア学会
日本在宅医療連合学会 等

外来診療担当医

下山下山下山下山下山

患者さんへのメッセージ

みなさんが治療を受けつつも普段の生活を少しでも快適に送ることができるお手伝いをさせていただきます。気がかり、不安、つらい症状等あれば、いつでも気軽にご相談ください。また、当院にかかっておられる患者さんだけでなく、ほかの病院にかかっていらっしゃる患者さんでも緩和ケアに関するセカンドオピニオン等を受け付けておりますので、どうぞご活用ください。

当院はがん専門病院です。緩和ケアに関しても、緩和ケア病棟こそありませんが、当院は最後の砦としての役割を担っていると考えております。しかし、がんであってもなくても、緩和ケアに関するご相談がありましたら気軽にご連絡ください。

診療実績

年度のべ件数
2016年度111件
2017年度543件
2018年度736件
2019年度862件
2020年度902件

治験・臨床試験

  • 令和2年度~令和4年度 厚生労働省科学研究費補助金「がん治療のどの時期にでも患者・家族や医療介護機関からアクセス可能な緩和ケアリソース情報を有する地域緩和ケアネットワークシステムの構築」:研究代表者 下山理史