診療科・部門

脳神経外科部

令和4年3月改訂

概要

脳神経外科部が常勤医師を有する診療科として設立されたのは平成28年3月のことであり、愛知県がんセンターの60年の歴史を比べればまだ最近のことです。当科はがん患者さんに併発する転移性の脳・脊椎腫瘍、脳卒中、感染症、脊椎変性疾患などに対しての診療を行っております。

設立当初より医療機器の充実に努め、手術顕微鏡、ニューロナビゲーション、ニューロモニタリングといった今日の脳神経外科手術に欠かせない最新手術機器は整っております。

がん患者さんは長い闘病生活で体力が落ちていらっしゃる方も少なくありません。これらの最新医療機器を駆使した低侵襲の手術は患者さんの身体的負担を軽減させ回復を早めます。速やかな術後回復は原発がんや他臓器の転移がんに対する治療への復帰を可能とさせるでしょう。

また名古屋大学脳神経外科に代表される連携病院との交流を密に行い、地域をあげた良質な医療の提供を心掛けております。

大野 真佐輔 部長

診療内容

脳腫瘍

診断と治療

脳腫瘍には原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍の2つがあります。原発性脳腫瘍は頭蓋内の組織から発生したもので、転移性脳腫瘍は他の臓器から転移浸潤したものです。脳は人間の人格や、機能、情操、運動コントロールなどあらゆる重要機能を司る組織で、脳腫瘍により機能が障害されれば様々な症状が発現します。脳腫瘍の診断・治療に関する情報に関しては脳神経外科疾患情報ページや愛知県がんセンターのホームページのがんの知識の中の「いろいろながん」を参照して下さい。入院患者のコンサルテーションでは肺がんや乳がんの脳転移の症例が多いのが特徴です。脳神経外科の治療は全体的に低侵襲・縮小手術・機能重視の方向にあります。

症状

  1. 早朝、起床時の頭痛、吐き気、嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状
  2. 脳の障害される特定の部位に準じて特定の神経症状(視野障害、運動障害、歩行障害、けいれん、見当識障害、記憶力低下、言語障害、視野障害など)
  3. 下垂体関連ホルモンや副腎皮質ホルモンや性腺刺激ホルモンの分泌異常による症状などです。

検査

採血検査、CT、MRIなどが主です。

成人に多く見られる原発性脳腫瘍の種類

神経膠腫(グリオーマ:退形成性星細胞腫と膠芽腫も含む)、髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、血管芽腫、その他です。

診断と治療

男性では肺がん、消化器がん 、女性では乳がんが多いのが特徴です。

転移性脊椎腫瘍

病態と治療方針

転移性脊椎腫瘍は、がんが脊椎に転移することで脊椎が破壊されていく病気で、ほとんどは背骨の痛みで発症します。病状が進行しますと、骨折や脊髄神経の圧迫をきたし、痛みで動けなくなり、神経障害(手足の麻痺、しびれ、膀胱直腸障害など)を生じてきます。転移性脊椎腫瘍の治療は、放射線治療単独、または、手術と放射線治療を組み合わせて行います。整形外科や放射線治療科、リハビリテーション科と連携して、個々の患者さんにとって最良の治療計画を立てていきます。

骨折や脊髄圧迫による神経障害を生じている場合は、治療が遅れるにつれ症状が治らなくなるため、緊急手術の適応となります。過去の研究結果から、手術前に麻痺で歩行不能の患者さんが手術後に歩行可能になる確率は、おおよそ5割程度と言われています。神経障害が生じる前の適切な時期に診断し、治療介入することが重要です。

当院では、専門医の診察にて、骨折や脊髄圧迫による神経障害を生じる危険性が高いと判断された場合には、できる限り早期に治療を開始するようにしています。また、一度放射線治療を行った後に腫瘍が再発した場合でも、積極的な治療介入を行っています。

転移性脊椎腫瘍に対する低侵襲手術

以前は、転移性脊椎腫瘍の手術は大変侵襲が大きく身体へ負担がかかるものでしたが、手術技術や機器の進歩により低侵襲な手術が可能となりました。個々の患者さんの症状や画像所見(MRI、CTなど)を十分に検討し、以下の手術のいずれかを選択します。

脊椎腫瘍摘出術

腫瘍により脊髄が圧迫されている場合に、手術用顕微鏡を用いて腫瘍を摘出し、脊髄の圧迫を解除します。腫瘍摘出の際に出血量が多くなると予想されれば、手術前日にカテーテルによる血管塞栓術(腫瘍を栄養する血管を詰める方法)を行います。これにより手術中の出血量が減り、輸血が必要になることは稀です。

最小侵襲脊椎安定術

骨折などにより脊椎が不安定になっている場合に、破壊されている脊椎の上下にスクリューを刺入し脊椎を安定化させます。以前は、皮膚を切開した後、脊椎後面に張り付いている筋肉を剥がし、手術部位を大きく開いて手術を行っていましたが、現在は、皮膚の切開を最小限にとどめ、脊椎後面の筋肉を剥がさずに筋肉の間からスクリューを刺入しています。この方法により、術後の痛みや手術中の出血量が減少し、手術後1-2日で離床が可能となります。

Balloon kyphoplasty(BKP)

骨折した脊椎へ骨セメントを注入し、骨折部を固める大変侵襲の少ない手術法です。骨折により生じている強い痛みを緩和する効果がありますが、適応が限られます。

原発性脊椎・脊髄腫瘍

比較的稀な疾患であり良性の病気が多いですが、中には悪性のものや経過の途中で悪性に変化するものがあり、治療に難渋する場合があります。手術による治療が基本となりますが、病理診断の結果で追加治療(薬物や放射線治療)を要する場合もあり、専門施設での治療が薦められます。

その他の脊椎脊髄疾患

変形性脊椎症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄などの変性疾患にも幅広く対応しています。

スタッフ紹介

大野 真佐輔 (おおの まさすけ)
役職
脳神経外科部部長
専門分野
脳腫瘍(悪性脳腫瘍・良性脳腫瘍)
学会・資格
日本脳神経外科学会 専門医・指導医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本脳卒中学会 専門医
日本脊髄外科学会 認定医
日本定位・機能神経外科学会 認定医
日本脳神経外科学会
日本脳卒中学会
日本脊髄外科学会
日本定位・機能神経外科学会
日本癌学会
日本脳腫瘍学会
日本脊髄障害医学会
日本脳神経外科コングレス
日本リハビリテーション学会
日本脳卒中の外科学会
日本脳神経外傷学会
灰本 章一 (はいもと しょういち)
役職
脳神経外科部医長
専門分野
脊椎・脊髄腫瘍(原発性、転移性)、脊椎変性疾患
学会・資格
医学博士(名古屋大学)
日本脳神経外科学会 専門医
日本脊髄外科学会 指導医
日本脳神経外科学会
日本脳神経外科コングレス
日本脊髄外科学会
日本脊髄障害医学会
卒業年
名古屋大学 平成19年卒

外来診療担当医

灰本 -大野灰本大野

患者さんへのメッセージ

大野 真佐輔
2021年 4月 1 日付で脳神経外科部部長を拝命しました大野真佐輔と申します。前任施設である国立病院機構名古屋医療センターでは、脳神経外科専門医として脳卒中、重傷頭部外傷等の一般的診療に従事する傍ら、脊椎脊髄外科、定位機能脳神経外科、脳卒中等のサブスペシャリティ領域の研鑽に努め認定医を取得してまいりました。

当院脳神経外科部は設立から5年と新しい部門です。前任部長の元では主に転移性脳腫瘍および転移性脊椎腫瘍の手術を手がけ順調に実績を積み重ねてまいりました。近年、脳神経外科領域の腫瘍の手術は高度な設備と機材が必要となりつつあり、地域医療施設間の連携が重要となってきております。今後は前任部長の実績を引き継ぎながら名古屋大学脳神経外科およびその関連施設との連携を強化しつつ、地域の脳神経外科領域の腫瘍治療に貢献していく所存です。
灰本 章一
脊椎脊髄領域を専門にしています。脊椎脊髄の病気は、背骨の痛みや手足のしびれ、麻痺の原因となり、適切に治療がなされないと後遺症が残ってしまいます。特に、がんの脊椎転移は進行がたいへん早く、早期に診断し治療を開始することが重要です。症状を自覚されたら、すぐに専門の医療機関を受診されることをお薦めします。近年の脊椎脊髄手術や放射線治療の技術の発展は目覚ましく、以前は治療が困難であった病状でも対処が可能となっています。脊椎脊髄の病気でお困りの方は、当科への受診をご検討いただければ幸いです。

診療実績

手術名201720182019
脳:頭蓋内腫瘍摘出術358
脳:その他の開頭術223
脳:広範囲頭蓋底腫瘍切除・再建術434
脳:下垂体腫瘍摘出術001
脳:定位的脳腫瘍生検000
脳:水頭症手術342
脳:その他の手術136
脊椎・脊髄:脊椎悪性腫瘍手術92935
脊椎・脊髄:脊椎良性腫瘍手術130
脊椎・脊髄:脊髄腫瘍摘出術015
脊椎・脊髄:経皮的椎体形成術(BKP)011
脊椎・脊髄:変性疾患011
脊椎・脊髄:その他の手術015
235371

研究実績

  1. 肉腫脳転移の摘出術に対する治療成績についての多施設共同研究