婦人科部
令和6年4月改訂
概要
当婦人科では、女性生殖器に発生する悪性腫瘍、主に子宮頸がん、子宮体がん(子宮内膜がん、子宮肉腫)、卵巣がん/卵管がん/腹膜がん、外陰がん、腟がんの診断・治療を行っています。
“婦人科腫瘍のGatekeeperたれ!” という婦人科部スローガン(2020年4月~)のもと、スタッフ一同で日常診療に取り組んでいます。

鈴木 史朗 部長
診療内容
婦人科部では女性性器に発生する悪性腫瘍の診断・治療を行っており、詳細は「いろいろながん」を御参照ください。
当院では患者さんに対するインフォームド・コンセントを、十分に行うよう努めています。婦人科がん患者さんにおいても、まずは病状の御理解を頂いてから治療方針を検討することが重要ですので、病名を理由に治療を急がせるようなことはありません。その時点で治療成績が最も良いとされる“標準治療”を基本としつつ、患者さん毎の状態や考え方(信念・価値観)等を踏まえたうえでの最適な治療方針の検討を行います。患者さん自身が納得のいく治療選択ができ、前向きに治療に向き合えるように丁寧かつ正確な情報提供を心掛けています。
“患者さん自身のためのがん治療”ですから、治療選択肢が複数あり判断が難しい・悩ましい場合等では主治医からの説明だけでなくセカンドオピニオンが役立つことがあります。他医療施設から当科への、逆に当科から他医療施設へのセカンドオピニオンについても随時対応していますので、気兼ねなくご相談下さい。
診療に際しては、看護師や薬剤師等との多職種とも連携し、患者さんとの意志疎通が十分であるか・乖離が生じていないか等複数の観点から確認するように努めています。
手術に関しては、合併症は最小限で、治療効果は必要十分~最大限にすることを念頭に行っています。
例えば、子宮頸がんに対する広汎子宮全摘術では、不要な術後放射線治療を回避するために十分な手術を行うのは当然のこととして、適応がある場合には排尿障害軽減のための骨盤神経温存術式や卵巣温存も対応しています。また、治療方針として手術を希望されない局所進行子宮頸がん患者さんについては、放射線治療部との迅速な連携のもと根治的放射線治療(もしくは同時化学放射線療法:CCRT)を検討・計画できるように采配します(婦人科医師が手術に関して、放射線治療部医師が放射線治療に関して、各々の治療の特徴や副作用・合併症に関して説明を行ったうえで患者さんに治療方針を選択していただけます)。子宮体がんでは、下述のように早期子宮体がんに対する腹腔鏡下子宮悪性手術(ロボット支援下腹腔鏡下手術含む)を保険診療下で行える体制となっております。また、2020年度からは婦人科手術クリニカルパス(術前後の検査や処置等のスケジュールを示した入院計画表)にERAS(Enhanced Recovery After Surgery=術後回復の強化)プロトコルを導入し、より適切な周術期管理・チーム医療を実現すべく取り組んでいます。
一方、進行・再発婦人科がんでは、病変の拡がり(周辺臓器への浸潤・転移等)や病状、さらには既治療の影響等によって一般病院では’手術適応自体の判断’や’高難度手術~周術期管理の対応’が困難な場合があります。当科では外科や泌尿器科等の他科相談~連携が必須である難治性婦人科がんに対して、高侵襲手術が可能かどうか・手術の治療的意義はどうかの検討を十二分に尽くします。当院症例だけでなく、他施設の症例に関しましても「難治性婦人科がん専門外来 [PDFファイル/541KB]」を開設しておりますので、ご相談ください。
また、”標準治療”の質向上だけでなく、その他の手段となる新たな治療開発・確立をめざし、多施設共同の臨床研究への参加や治験の適応判断~当院での実施についても積極的に行っております。
当院は、他院での治療が難しいと判断された症例についても可能な限り治療法の検討を尽くすことで、治療成績は別に示すとおりで概ね良好な成績が得られています。
腹腔鏡下手術
婦人科部では、2015年より腹腔鏡下手術を本格的に開始しました。2016年4月より早期子宮体がんに対する腹腔鏡下子宮悪性手術を行っております。当院の特徴として良性疾患の腹腔鏡下手術件数は非常に少ないですが、早期子宮体がんのため受診された患者さんには、腹腔鏡下手術(ロボット支援下腹腔鏡下手術含む)の選択肢を提示し、適応が合致かつ患者さんの希望があれば実施しております。また下述のリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)に関しても原則、腹腔鏡下手術で行っています。
ロボット支援下腹腔鏡下手術
当院では、2015年7月に最新式ロボット(ダビンチXi)が導入されており、泌尿器科部を中心にロボット手術が行われています。婦人科部においては、早期子宮体がんに加え、2024年7月~は子宮良性腫瘍/前がん病変の患者さんに対しても、ロボット支援下腹腔鏡下手術を保険診療下で行える体制となっております。
リスク低減卵管卵巣摘出術(Risk-Reducing Salpingo-Oophorectomy;RRSO)
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer; HBOC)はBRCA1あるいはBRCA2遺伝子のどちらかに病的変異がある場合に診断されます。親のどちらかが病的変異の遺伝子を持っている場合、その変異が子供に受け継がれる確率は性別に関係なく50%と言われています。HBOCの方は、乳がんや、卵巣がん(卵管がん、腹膜がんを含む)、膵癌や前立腺がんなどの発症のリスクがあります。様々な報告がありますが、2017年の海外の報告によると生涯のうちで乳がんにかかる可能性はBRCA1、BRCA2いずれも約70%、卵巣がんにかかる可能性は、BRCA1の場合が44%、BRCA2の場合が17%と報告されています。BRCAに病的変異が見つかった場合でも、実際にがんを発症するかどうか、もしくは発症時期までは予測することはできません。卵巣がんの発症を予防する目的で、左右両方の卵巣及び卵管を切除する手術がRRSOです。卵巣がんに関しては、有効な検診方法が確立されておらず、RRSOによってのみ卵巣がんのリスクや卵巣がんによる死亡率を減らすことが報告されています。
現時点で本邦でのRRSOは、自費診療で行う場合(乳がん未発症者のHBOC症例)と保険診療で行う場合があります。当院では、2017年より臨床試験として、倫理委員会の承認のもとに自費診療でRRSOを実施してきました。2020年4月より乳がん患者さんのうちHBOCと診断された方に対するRRSOが保険適応となりました。そのため当院においても、乳腺科・遺伝部門との協議の上、保険適応がある患者さんに対してRRSOを実施しています。
リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)の概要
RRSOの適応
自費診療:BRCA遺伝子に病的変異があり、35歳以上で、妊娠を今後希望されない方等(適格基準より一部抜粋)が適応となります。保険診療:HBOCと診断された乳癌患者さんであり、全身状態が落ち着いている等の条件を満たす場合が適応となります。他院で検査が済んでいる方でRRSOを希望される方、迷っている方は、紹介状や検査結果を持参して、まずは当科を受診していただき、ご相談ください。また、遺伝カウンセラーも対応いたします。
入院期間の目安
前日入院
両側卵管卵巣切除のみ:計4日間程度、両側卵管卵巣切除+子宮全摘術:計6日間程度
※原則として腹腔鏡下手術ですが、既往歴等により開腹となる場合もあります。入院期間は開腹の場合や、術後の経過により延長することがあります。
費用
前述のとおり、適応によって自費診療(自己負担)の場合と保険診療の場合があります。
HBOCの方で手術を選択しない場合:
卵巣がんや腹膜がん検診としての検査は積極的に推奨されるほどの精度は示されていませんが、半年から一年に1回の頻度で経腟超音波、腫瘍マーカー(血液検査)を当科で対応させていただいております。希望される方、不安な方はご相談ください。
費用
HBOCに関する遺伝カウンセリング、遺伝子検査、検診、予防についても内容により保険診療であるものと自費診療のものがあります(詳細は担当医にご確認ください)。
スタッフ紹介
日本婦人科腫瘍学会 専門医・指導医・代議員
日本遺伝性腫瘍学会 専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本免疫治療学会 運営委員シニア
公認心理師
日本産科婦人科学会
日本婦人科腫瘍学会
日本産科婦人科内視鏡学会
日本癌学会
日本癌治療学会
日本人類遺伝学会
日本遺伝性腫瘍学会
日本免疫治療学会
日本婦人科腫瘍学会 専門医
日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本産科婦人科学会
日本婦人科腫瘍学会
日本産科婦人科内視鏡学会
日本癌学会
日本人類遺伝学会
日本婦人科腫瘍学会 専門医
日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡技術認定医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本産科婦人科学会
日本婦人科腫瘍学会
日本産科婦人科内視鏡学会
日本癌学会
日本癌治療学会
日本婦人科腫瘍学会 専門医
日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡技術認定医
日本癌学会
日本細胞外小胞学会
日本人類遺伝学会
日本周産期・新生児医学会 産期(母体・胎児)専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本産科婦人科学会
日本婦人科腫瘍学会
日本産科婦人科内視鏡学会
日本女性医学学会
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本産科婦人科学会
日本婦人科腫瘍学会
日本産科婦人科内視鏡学会
日本婦人科ロボット手術学会
日本周産期・新生児医学会
当科では婦人科腫瘍や手術に興味がある医師の皆さんに是非勤務して頂きたく、常勤医やレジデントを募集しております。御興味があるかたは当院へ御連絡ください。
外来診療は、診察や検査等により必要な情報を収集するとともに、患者さんや御家族の御意見や御希望をうかがい、治療方針を相談する非常に重要な場です。当科では主に以下の項目に留意の上でお話しています。
IC(インフォームド・コンセント)
当科ではIC(インフォームド・コンセント)の精神に基づき、当科で治療を受けられる全てのがんの患者さんについて、御本人に「がんの告知」を行っております。告知を行う以上、当科では患者さん御本人や御家族にがんの診断や治療・予後についての多くの情報を御提供し、御相談し納得して頂いた上で治療方針を決めております。このため、患者さんにすぐに御提供できるよう多くの情報を準備し、その中でも患者さん御本人の御希望に沿うような、がんの診断や治療に関するお話しができるよう努力しております。
治療法の選択
当科では、治療法を選択する際には治療効果と共に副作用や合併症(有害事象)にも十分配慮しております。一般に「がん治療の柱」といえば手術、放射線治療、抗がん剤による化学療法ですが、がんの種類により各治療法の効果には違いがあり、また各治療法や投与する抗がん剤により副作用・合併症(有害事象)にも大きな違いがあります。例えば子宮頸がんを治療する場合には手術か放射線治療を選択することになるのですが、手術では排尿障害や下肢の浮腫(むくみ)、放射線治療では血尿や血便・下痢(放射線性膀胱・直腸障害)と、治療法により生じる合併症に違いがあります。また卵巣がんに対する化学療法は、投与する抗がん剤により吐気・脱毛・末梢神経障害(しびれ)等の副作用が異なります。当科では、患者さん御本人の御希望を伺った上で、その患者さんに最も適した治療法が選択できるよう努力しております。
当院外来での婦人科がん検診について
HBOC以外の患者さんや健康な方の検診は行っておりませんので、お近くの住民健診、職域検診、人間ドックをご利用ください。
相談・セカンドオピニオンでの受診について
当科では相談のみ(セカンドオピニオン)の受診について応対しております。よく受診されるのは、他の病院でがんの診断を受けられた治療前、再発がんの治療、診断や説明に納得がいかない場合、治療方針について不安がある場合、等です。がんの診断についてはがん専門医として意見をお話しさせて頂きますし、治療についてはがんの種類や進行度によって病院により治療方針が異なる場合もありますので、当科での治療に関する考え方から方針までお話しさせて頂きます。
相談受診される場合には、病院間での連携システムを介してご予約ください。診断された病院の紹介状や画像写真・病理標本等をお持ちいただきたいと思います。受診される時間をできるだけ有意義にするためには、可能な限り多くの情報を持参していただくことをお勧めします。予約なしの受診や資料がない状況での受診でも、診察はいたしますが、待ち時間が長くなること、曖昧な内容になる可能性がありますので、ご了承ください。
患者さんへのメッセージ
診療実績
2022年の子宮頸がん(上皮内腫瘍)・子宮体がん・卵巣がんの初回治療症例数は各々41例・51例・37例で、これ以外に外陰がんや腟がん2例を治療しました。また手術施行数は子宮頚部円錐切除術が41例、広汎子宮全摘術が24例、準広汎子宮全摘術が35例、卵巣がん根治手術が19例でした。他にも良性~境界悪性卵巣腫瘍に対する附属器摘出術7例、初期の子宮がんや子宮肉腫に対する腹式子宮全摘術3例、子宮頸部上皮内腫瘍に対する腹腔鏡下子宮全摘術10例、腹腔内再発に対する再発腫瘍切除を2例、進行がん、再発腫瘍に対する骨盤内蔵全摘術を4例施行しています。この様に当院には国内有数の症例数があり、東海地方の婦人科悪性腫瘍の中核病院となっています。
| 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
|---|---|---|---|---|
| 卵巣悪性腫瘍 (境界悪性含む) | ||||
| 卵巣癌根治術(子宮摘出・両付属器切除・後腹膜リンパ節郭清・大網切除) | 15 | 19 | 13 | 14 |
| 卵巣癌基本術式(子宮摘出・両側付属器切除・大網切除) | 22 | 22 | 32 | 12 |
| 附属器摘除術 | 2 | 2 | 12 | 2 |
| 試験開腹術(ラパロ含む) | 0 | 2 | 2 | 6 |
| 再発腫瘍摘出 | 1 | 2 | 0 | 0 |
| 骨盤内臓全摘術 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| その他の手術 | 3 | 3 | 5 | 8 |
| 子宮頸がん、CIN、LEGH等 | ||||
| 広汎子宮全摘(開腹) | 16 | 19 | 26 | 17 |
| 準広汎子宮全摘 | 6 | 2 | 2 | 4 |
| 腹腔鏡下 郭清あり | 3 | 4 | 6 | 6 |
| 腹腔鏡下 郭清なし | 13 | 16 | 16 | 9 |
| 円錐切除 | 60 | 41 | 60 | 39 |
| 骨盤内臓全摘術 | 0 | 1 | 3 | 0 |
| その他の手術 | 1 | 8 | 1 | 7 |
| 子宮体がん、子宮内膜異型増殖症等 | ||||
| 広汎子宮全摘(開腹) | 1 | 4 | 1 | 2 |
| 単純〜準広汎子宮全摘(開腹、リンパ節郭清含む) | 38 | 33 | 30 | 35 |
| 単純子宮全摘(開腹、リンパ節郭清含まない) | 3 | 6 | 5 | 10 |
| 腹腔鏡下 郭清あり | 4 | 3 | 9 | 5 |
| 腹腔鏡下 郭清なし | 5 | 4 | 7 | 8 |
| ロボット 郭清あり | 9 | 5 | 7 | 9 |
| ロボット 郭清なし | 1 | 2 | 0 | 2 |
| 内膜掻爬 | 15 | 3 | 9 | 6 |
| 骨盤内臓全摘術 | 1 | 0 | 0 | 2 |
| その他の手術 | 4 | 1 | 2 | 3 |
| 外陰がん、膣がん等 | ||||
| 外陰切除・腟切除 | 3 | 0 | 1 | 4 |
| マッピング生検 | 0 | 1 | 0 | 1 |
| 骨盤内臓全摘術 | 1 | 2 | 1 | 1 |
| その他の手術 | 2 | 1 | 0 | 0 |
| 卵巣腫瘍(良性) | ||||
| 開腹術 | 17 | 2 | 4 | 9 |
| 腹腔鏡下 | 1 | 1 | 1 | 2 |
| その他の手術 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 子宮筋腫、腺筋症等 | ||||
| 開腹術 | 7 | 2 | 3 | 8 |
| 腹腔鏡下 | 1 | 2 | 3 | 0 |
| その他の手術 | 0 | 1 | 0 | 1 |
| RRSO (HBOC) | 23 | 20 | 14 | 11 |
| その他 | 2 | 5 | 19 | 11 |
治験・臨床試験
当科では日本産科婦人科学会や日本がん治療学会、日本婦人科腫瘍学会等の学会の他、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)や婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構(JGOG)等の主催する臨床試験や新規薬剤の治験にも積極的に参加しているため、治療を受けられる患者さんに臨床試験への御参加や、研究へ血液やがん組織他の検体の御提供を御願いする場合があります。
臨床試験は新しいより効果のある治療法を開発する目的で行われ、手術や抗がん剤、放射線治療について数多く行われています。また研究のために血液やがん組織の御提供をお願いする場合には、がんの原因究明や新たな検査法や治療法の開発に、貴重な資料として使わせて頂いております。これらの臨床試験や検体を使った研究は、がん治療の進歩には必要不可欠であることから、患者さんには御迷惑をおかけしますが御協力をお願いしております。
当科に関連した新規薬剤の試験については、“現在実施中の治験”をご参照ください。
このような臨床試験や治験に関しては、任意ですので、自由意志の下でご協力ください。