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皮膚がん

皮膚がんの構造とがんの発生

皮膚は表面に近い部分から表皮・真皮・皮下組織の3つの部分に大きく分かれます。さらに表皮はいくつかの層(表面から順に角質層・顆粒層・有棘層・基底層と呼びます)に分かれます。基底層(表皮最下層)と真皮の間には基底膜があります。真皮~皮下組織にかけて、毛包・脂腺・汗腺という表皮と構造の類似した皮膚付属器があります。真皮・皮下には他に脂肪織・血管・立毛筋などの上皮以外の重要な組織と神経があります。これらのうち、表皮と皮膚付属器の細胞が悪性化したものを総称して「皮膚がん」と呼びます。ごく稀なものまで含めると皮膚がんの種類は非常に多いですが、ここでは前癌病変の「日光角化症」、「ボーエン病」や特徴的な進展を示す「パジェット病」、また頻度の高い基底細胞がんと有棘(ゆうきょく)細胞がんと悪性度の高い「悪性黒色腫(メラノーマ)」について述べます。

注意すべき皮膚の状態

皮膚の異常は直接目で見ることができるので、皮膚がんは早期に発見できる可能性が高い反面、自己判断で様子を見ていて発見が遅れる危険性があります。強烈な日光(紫外線)を浴び続けることや大量に浴びた放射線により皮膚がんが発症することはよく知られています。昔に負ったひどいヤケドやケガのキズ跡や何年も治らないジクジクした皮膚病の一部から皮膚がんができることもあります。一方、ホクロや湿疹だと思っていたら、実はがんだったという例もあります。皮膚にできた病変を見つけて「変だな」と思われたら、一度は皮膚科専門医に見せることが重要です。

湿疹と紛らわしい前がん病変や特殊ながん

日光角化症・ボーエン病・パジェット病のような病変は、皮膚科医師以外では診断することが困難です。確定診断には皮膚生検が必要です。

日光角化症

初老期になると頭・顔・首・手背・前腕などの日光(紫外線)のよくあたる部位に、大きさ1cmから数cm、正常皮膚との境界が不明瞭な[淡い褐色から紅褐色][角のような~表面がカサカサ]した皮疹が見られることがあります。「老人性角化症」とも呼ばれ、高齢になるほど発生頻度と面積が大きくなるようです。この前がん病変は近年増加傾向にあります。その原因として[高齢者の増加][オゾン・ホールの増大]という説もあります。日光角化症の治療は手術、多発例では凍結療法、PDT(photodynamic therapy)、抗癌剤軟膏(5-FU等)外用、イミキモド(顔・禿頭部のみ)外用などがあります。

ボーエン病

ふつうは胸・腹・背など、日光に当たらない部位に発生し、湿疹と間違われるやすい皮膚がんの表皮内病変です。不整形の斑状または軽く盛り上がった皮疹で[色は淡紅色から褐色調が多く][時には一部にびらん][かさぶたが付いている]こともありますが、正常皮膚との境界は明瞭です。「ボーエン;Bowen」というのは人名です。全身にこの皮疹ができる「多発性ボーエン病」は砒素との関連が知られています。ボーエン病の治療は手術が一般的ですが、年齢・部位・個数によって凍結療法やPDT、抗癌剤軟膏(5-FU等)外用もあります。放置すると後述する有棘細胞癌へ進行することもあるので要注意です。

パジェット病

発見者の名前Pagetから「パジェット病」と呼ばれます。「パジェット病」は大きく「乳房パジェット病」と「乳房外パジェット病」の二つに分けられます。ここでは「乳房外パジェット病」について述べます。乳房外パジェット病は、[60歳以上][性比は男3:女1][よくできる部位はアポクリン腺の多い外陰部・肛門周囲・ワキの下][ときに痒みのある湿疹のような赤い斑]です。湿疹やタムシ(実際にカンジダという菌がよくみつかります)に似ています。クスリを長期間塗っても治らず、むしろ範囲の広がっていくような場合には注意が必要です。診断がついたら、主な治療は外科療法です。しかし、乳房外パジェット病のがん細胞は、表皮内をはうように、またスキップをするようにして、肉眼的な腫瘍の輪郭よりずっと広い範囲にちらばる性質を持っており、完全に切除するためには腫瘍の周囲の肉眼的には正常にみえる部分を1~3cmの余裕をもって切除しなければ十分とは言えません。予め、周辺の正常と思われる皮膚を点々と生検し(マッピング)、おおよその病変の広がりを把握します。また、この腫瘍は放射線治療によく反応します。高齢の患者さんには放射線や電子線治療を第一選択にする場合があります。進行するとリンパ節や他臓器転移を起こし、予後不良となる場合もあります。

基底細胞がん

基底細胞がんは、表皮の最下層である基底層や毛包などを構成する細胞から発病します。正確な年間発生数は不明ですが、日本人に最も多い皮膚がんです。市立病院クラスの皮膚科へは毎年4~5人以上は訪れていると思われます。基底細胞がんは頭と顔の正中部によく発生し、発生学的に皮膚原器を欠く手のひら・足の裏には発生しません。したがって原因として[表皮を作る元の細胞に問題があり][長期間の日光被爆によって引き起こされる]可能性が高いと想像されます。40歳以上の中高年に多く、人口の高齢化とともに発生数が増え続けています。通常のがん年齢よりも高齢者に多い傾向(60歳代が全体の26%、70歳以上が全体の45%:国立がんセンター集計)があります。基底細胞がんは、放置すると皮膚だけでなく筋肉や骨などの深い組織へと浸潤していきますが、リンパ節や内臓への転移は非常に稀なため、生命予後は良好です。

(1)基底細胞がんの症状

初期症状として最も多いのは「ほくろ」と勘違いされる小さな黒いできものです。これが通常は数年かかって徐々に大きくなり中心部は崩れ、周辺部は堤防状に盛り上がった黒いできものが並びます[結節・潰瘍型]。多くは上下のマブタ・鼻・上口唇のまわりに発生します。まれには湿疹や傷が治った跡のような、がんには見えないような皮疹もあります。通常、痛みや痒みなどの自覚症状はありません。

(2)基底細胞がんの診断

確定診断のためには、皮膚生検が必要です。手術の前に病変の広がり・深さを知るためにCT・MRI・皮膚超音波検査を要することもあります。

(3)基底細胞がんの病期(ステージ)

病期分類は次の有棘細胞がんの項を参考にしてください。

(4)基底細胞がんの治療

治療法は外科療法が基本で、切除不能の時には外用療法なども行われます。手に触れる腫瘍の辺縁の外側数mm離してメスを入れ、皮下脂肪組織も含め十分な深さまで切除します。十分に切除できた場合だけ縫合閉鎖~局所皮弁や植皮術でキズを直します。このがんは顔面の中心部に多く発生し、目・鼻・口の変形を避けるため甘い手術をすると再発の危険が高くなります。キズを再建してから再発をした基底細胞がんの治療後の再発率、つまり再々発率は50%に達します。組織型によっては局所浸潤傾向も強いため、初回手術で十分な切除が非常に大切です。切除標本の詳細な病理組織学的な検討は必須です。一方、目・鼻・口あたりの腫瘍の場合、必要十分に切除して再建しないで自然にキズを収縮させる方法もあります。キズが治るまで1~2ヶ月を要することと美容上の欠点がありますが、点状に収縮した瘢痕(キズの治った跡)になり、観察し易くなります。

有棘細胞がん

有棘細胞がんは、腫瘍細胞が表皮の中間層を占める有棘層を構成する細胞に似たがんです。正確な年間発生数は不明ですが、「基底細胞がん」に次いで多く、市立病院クラスの皮膚科で年間3~5例と思われます。(10万人当たり2.5人)

このがんの誘因としては、注意すべき事項で述べました。とくに問題のある紫外線の影響以外にも皮膚の有棘細胞がんの発症に「ヒト乳頭腫ウイルス」(子宮頚がんなどの原因の一つ)の関わりが注目されています。その他には、放射線治療後におこる慢性放射線皮膚炎などです。さらに、PUVAと呼ばれる皮膚病治療法・化学物質では砒素化合物・タール類・鉱物油(切削油)などが発生に関与する場合があります。

有棘細胞がんは年齢では高齢者に多く、性別ではやや男性に多く、最近では平均寿命を乗り越えた方々の発症が増加しています。

(1)有棘細胞がんの症状

有棘細胞がんの発生部位・原因・病期によって様々な症状をあらわします。好発部位は顔面、手背部です。通常はかさぶたが付着した感じや赤みを帯びた肉が盛り上がった感じとなり、表面はジクジクして出血しやすく、進行すると腫瘍の形はカリフラワー様になることがあります。自覚症状はないことが多いのですが、神経浸潤を生じると強い疼痛を覚えるようになります。腫瘍の表面は正常皮膚と違って脆く細菌感染を起こしやすいためで、ときに膿を持ったり悪臭を放ったりします。

(2)有棘細胞がんの診断

確定診断のためには、少し大きめの皮膚生検が必要です。他に腫瘍の拡がりや転移を調べるため、胸部レントゲンやCT・MRIなどの精密検査を必要に応じて行います。検査によってがんの進行状態(病期:ステージ)を確かめそれぞれの病期に応じた治療法を行います。

(3)有棘細胞がんの病期(ステージ)分類

皮膚がん(悪性黒色腫を除く)は、以下のように0期からIV期までの5つの病期に分けられます。

0期悪性化した細胞(がん細胞)が見られますが、表皮の中にとどまっています。この時期を「表皮内がん」と呼び、がんの一歩手前の状態です。まだ本物のがんではありません。日光角化症・ボーエン病など。
Ⅰ期腫瘍の大きさが長径2cm以下、真皮だけ、または真皮から皮下組織の中にとどまっている時期です。
Ⅱ期腫瘍の大きさは2cmを超えていますが、真皮・または真皮から皮下組織の中にとどまっています。
Ⅲ期腫瘍の大きさにかかわらず、腫瘍の深さが皮下組織を超えて筋肉・軟骨・骨などに及んでいる時期です。または、腫瘍の大きさにかかわらず、「所属リンパ節」と呼ばれる頭頚部なら首・上肢や胸なら脇の下・下肢や陰部なら太ももの付け根のリンパ節に転移があるものです。(注:同時にいくつもの腫瘍がある場合は、そのうち最も進行した腫瘍で病期分類します。)
Ⅳ期所属リンパ節を越えて遠隔転移(または内臓に転移)している時期です。

(4)治療法

イ)外科療法

有棘細胞がんは、腫瘍そのものだけを切除しても再発や転移を起こす可能性がありますので、腫瘍のまわりの正常に見えるところを含めて、幅も深さも余裕をもって切除する必要があります。また所属リンパ節郭清術も必要に応じて行われます。手術によって皮膚や組織の欠損が大きくなった場合には、植皮術をはじめ、形成外科的な方法で傷を治します。

ロ)凍結療法

液体窒素を使ってがん組織内の温度が-20~-50℃になるように冷やし、がん細胞を凍結壊死させる方法です。0期や浸潤のごく浅いがんにはこの治療法も適応があります。凍結療法は治療時や治療後の身体への影響の少ない方法なので、高齢の方や持病のために身体の具合の悪い方にも適した治療法です。

ハ)放射線療法

有棘細胞がんは放射線療法がよく効くといわれていますが、何故か皮膚では通常単独では著効しません。皮膚への放射線治療はエックス線や6~10メガ電子ボルトの電子線を照射します。ふつう1回の照射は少量短時間ですので通院でも可能です。当科では、単独では効果の少ない抗がん剤を点滴してから照射を受けていただいています(集学的治療)。治療による障害:放射線を照射する部位によって障害は異なります。一般に、放射線を照射した部位の皮膚が一種のヤケドの状態になり、発赤・水疱・びらんなどを生じ、後に色素沈着や関節の拘縮・手足のむくみなどがおこることがあります。晩期障害として何十年後かに二次がんの発生が報告されています。

ニ)化学療法

ある程度がんが進行していた場合(II期以上)には、全身療法である化学療法が必要となる場合があります。シスプラチン・ブレオマイシン・5-FUなどを使用します。最近では、免疫チェックポイント阻害剤や分子標的薬の治療も検討されています。進行期には放射線療法との併用も行います(集学的治療)。化学療法の主な副作用は食欲不振・吐き気・嘔吐・発熱・全身倦怠感・脱毛・下痢・呼吸機能障害(特に間質性肺炎/肺繊維症=死亡するリスクあり)・肝機能障害・腎機能障害・骨髄抑制(血液中の白血球・赤血球・血小板が減少)などです。いずれも抗がん剤によっておこる一時的なものですが、回復が遅れた場合には、それぞれの副作用を軽くするような治療を行います。

ホ)集学的治療

ある程度進行した有棘細胞がんは、上のイ~ニのうちからひとつを選んで治療を行うのではなく、これらをうまく組み合わせて最も効果が上がるような治療を行います。これを集学的治療といいます。

(5)病期別治療

皮膚悪性腫瘍取り扱い規約で治療指針が示され、皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインではアルゴリズムが示されていますが下記に簡単に記載します。

0期腫瘍の辺縁から4~6mm離して、深部は腫瘍が露出しない程度に皮下脂肪組織を含めて切除します。凍結療法を選択できる場合もあります。抗がん剤軟膏の使用は、将来がんに進んだときの悪性度を高めるため慎重にしなければなりません。
Ⅰ期腫瘍の辺縁から4~6mm(またはそれ以上)離し、表皮・真皮・皮下脂肪組織を腫瘍とともに切除します。
Ⅱ期腫瘍の辺縁から6~10mm離し、表皮・真皮・皮下脂肪組織を腫瘍とともに切除します。一般に腫瘍が大きくなると、浸潤の深いものが増え、この場合、皮下脂肪組織と筋肉の境界部にある筋膜という薄い膜も切除します。化学療法や放射線療法を併用することがあります。
Ⅲ期腫瘍の辺縁から6~10mm(またはそれ以上)離して切除します。腫瘍は皮下組織を超えて浸潤していますので、筋肉を含めて切除したり、骨を削ったり、時には患肢の切断術が必要になります。また、リンパ節に転移がある場合は「所属リンパ節郭清」と呼ばれる手術方法によって、リンパ節を掃除します。III期もII期と同様に化学療法や放射線療法を併用することがあります。
Ⅳ期化学療法や放射線療法が中心となり、これに手術も組み合わせる集学的治療を行います。

(6)有棘細胞がんの治療成績

有棘細胞がんは身体の表面に出現するため、内臓がんに比べて早期発見・早期治療が可能な場合が多く治療成績は良好です。0期やI期のうちに治療を受けた場合、5年生存率はほぼ100%、II期の場合でも85%、III期では所属リンパ節転移のない場合で65%、所属リンパ節転移のある場合は55%くらいとなります。IV期になり、内臓転移を起こしていると治療は簡単ではありません。転移を起こしている部位によっても治療成績は異なるのですが、標準的な治療を行った場合の5年生存率は40%以下となります。また、指の皮膚がん・脈管~神経浸潤を来しているがんの治療成績は更に悪くなる傾向があります。

メラノーマ(悪性黒色腫)

メラノーマは、メラニンをつくり出す皮膚細胞(メラニン細胞)から発生する癌です。発生頻度には人種差があり、日本人は人口10万あたり1~2人とされ、欧米人の1/10程度の頻度です。

(1)メラノーマの症状

メラノーマの多くは黒色調を呈する色素斑として認識されます。表皮にとどまる病変はシミの形態をとります。その後、基底膜を破壊し真皮内に浸潤して水平方向の増殖を始めるため、触診上浸潤のある色素斑として認められます。左右非対称の不規則な形状、色調も濃淡不整が見られ、境界も不均一であることが多いです。さらに、垂直方向の浸潤・増殖を起こせば隆起性病変や潰瘍性病変となり、転移の確率も高くなります。時に無色素性悪性黒色腫と呼ばれるメラニン産生の見られないものがあり、臨床診断が困難なケースがあります。

(2)メラノーマの診断

ダーモスコピー(Dermoscopy)で認められる皮丘平行パターン(parallel ridge pattern)やatypical pigment network(非対称な色素ネットワーク)はメラノーマの特徴的所見とされます。生検は腫瘍細胞の播種をおこすおそれがあるため禁忌という考え方もありましたが、早期に拡大切除するならば基本的に問題ないとされています。熟練した皮膚科医が見て表皮内黒色腫の疑いのときはシミより少し大きめ(5ミリ程度)に切除して診断します。ホクロのがんでも表皮にとどまっていれば治療終了で、ほぼ100%再発しません。その後、所属リンパ節や遠隔転移の評価のため、超音波検査、CT、PETなどでTNM分類と病期を決定します。所属リンパ節の転移が明らかでない場合は、センチネルリンパ節生検を行い、転移が判明したらリンパ節郭清を行います。所属リンパ節転移が明らかな場合はリンパ節郭清を行います。広範囲なリンパ節転移や他臓器転移がある場合は、免疫チェックポイント阻害剤などの化学療法を主体とし、外科治療、放射線治療を加えた集学的治療が行われます。

(3)メラノーマの病型分類

Clarkらは臨床像と予後と病理組織学的特徴から4型に分類しています。さらに粘膜型を加えた5つについて記載します。

イ)悪性黒子型(発症頻度:約10%)

高齢者の顔面に好発し、前駆する黒色斑の10-40年の水平方向の増殖を経て垂直方向への増殖になります。発育が緩徐で、慢性の紫外線照射と関連すると言われています。BRAF遺伝子変異やNRAS遺伝子変異が発症に関連しています。

ロ)表在拡大型(発症頻度:約20%)

20歳~高齢者の体幹・下腿に好発し、あまり隆起せず表皮内を拡がります。水平方向の増殖は数年でおきます。バカンスやレジャーで受ける強烈な紫外線照射との関連が指摘されています。黒色調だけでなく、赤色調が混在したり、腫瘤全体が赤色調を呈したりすることがあるため、注意が必要です。BRAF遺伝子変異やNRAS遺伝子変異が高頻度に認められます。

ハ)結節型(発症頻度:約10%)

短期間で垂直方向への増殖へ移行するため、色素斑を認めない結節性病変や黒色腫瘤で潰瘍形成することもあります。予後は悪く、特に腫瘍の厚さがより重要と言われています。

ニ)末端黒子型(発症頻度:約40-50%)

50歳以降の足底・指趾爪部に好発し、水平方向の増殖は数ヶ月~数年です。機械的刺激や外傷が誘因となると考えられています。サイクリンD1の増幅が見られることがあります。c-KIT遺伝子変異やBRAF遺伝子変異が発症に関連しています。

ホ)粘膜型(発症頻度:約10%)

中年から高齢者の口唇、口腔内、眼瞼、鼻腔、外陰部粘膜に生じ、水平方向の増殖は数ヶ月~数年です。反復する機械的刺激や外傷が誘因となると考えられています。皮膚原発のメラノーマと比較して解剖学的に拡大切除が困難でリンパ流も豊富であることが多く、予後不良のことが多いです。

(4)病期別治療

皮膚悪性腫瘍取り扱い規約で治療指針が示され、皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインではアルゴリズムが示されていますが下記に簡単に記載します。

0期表皮(皮膚の表層)のみの病変。腫瘍の辺縁から0.3~0.5cm離して、深部は脂肪組織深層を含めて切除します。
Ⅰ期腫瘍の辺縁から1cm(IB期の一部は1~2cm)離し、表皮・真皮・皮下脂肪組織または筋膜を含め広汎切除します。IB期はセンチネルリンパ節生検を行うこともあります。センチネルリンパ節陽性の場合には、III期として対応します。
Ⅱ期腫瘍の辺縁から2cm(IIA期の一部は1~2cm)離し、表皮・真皮・皮下脂肪組織または筋膜を含め広汎切除します。しばしば植皮手術も行われます。また、IB期同様にセンチネルリンパ節生検を行うこともあります。センチネルリンパ節陽性の場合には、III期として対応します。
Ⅲ期センチネルリンパ節陽性例、臨床的に領域リンパ節陽性が明らかな例、衛星転移・in-transit転移陽性例のそれぞれで治療方針を細かく検討します。いずれも可能な場合は、腫瘍の辺縁から2cm離して広汎切除します。その上で、センチネルリンパ節陽性例では、通常は定期的なリンパ節エコーやCTによるフォローとなりますが、病状によってはリンパ節郭清術と薬物療法(分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤:詳細はIV期を参照)を行う場合もあります。臨床的に領域リンパ節陽性が明らかな例では、原発巣切除とリンパ節郭清術を同時に行い、術後に領域リンパ節に対する放射線治療も考慮します。薬物療法(前述の通り)も行うことがあります。衛星転移・in-transit転移陽性例では、原発巣切除後に、インターフェロンβなどの腫瘍内注射や薬物療法(前述の通り)を行います。
Ⅳ期一次療法として、分子標的薬あるいは免疫チェックポイント阻害剤による薬物療法を行います。病状に応じて、二次療法も行うことがあります。免疫チェックポイント阻害剤には、抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)があり、両者の併用療法が行われています。分子標的薬には、BRAF阻害剤(ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ)、MEK阻害剤(トラメチニブ、ビニメチニブ)があり、分子標的薬はBRAF遺伝子変異を有する場合のみ適用となります。単剤あるいは併用療法が行われています。2014年以降、手術不能進行期症例に対し、これらの新しい全身薬物治療が認可され、当院でも治療を行っています。

(5)経過・予後

所属(領域)リンパ節転移やin-transit転移(原発巣から2cmを超えて、所属リンパ節までの間に存在する皮内または皮下の転移)や皮膚、肝臓、肺、脳転移などの遠隔転移を生じやすいので、定期的にチェックします。再発は2~3年以内が多いですが、10~20年後の再発も稀に見られます。皮膚転移や所属リンパ節転移に関しては患者さんによるセルフチェックも重要です。5年生存率は、I期95%以上、II期90%前後、III期70%前後まで向上してきています。

参考とすべきインターネット・サイト

参考文献:日本皮膚科学会 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン 他