当センターについて

前立腺がん

前立腺がんとは

前立腺の解剖と働き

前立腺は男性にしかない臓器で、精液の一部を作っています。解剖学的には恥骨の裏側の骨盤腔の奥で、さらに膀胱に連続しその下に位置し、尿道を取り囲み、通常は3×4cm程度の大きさです。また前立腺の背側は、直腸に隣接しているため、肛門から指を入れることにより(直腸診)、直腸壁越しに容易に触れることが出来ます(図1)。この前立腺に発生するがんを前立腺がんといいます。

正常前立腺は栗の実のような形で、移行領域と中心領域からなる内腺部と辺縁領域からなる外腺部からなります。一般的に良性の前立腺肥大症は移行領域から発生し、前立腺がんの約70%は辺縁領域から発生します(図2)。

図1
図2

前立腺がんの統計

前立腺がんは、欧米諸国では男性のがんの中で大変多いがんとして知られています。とくに黒人、白人に発症頻度が高く、アメリカ合衆国においては男性のがんの中で罹患数は1位、死亡数は肺がんに次いで2位と最も多いがんの一つとなっています。

泌尿器科で扱う男性のがんの中では、罹患率、死亡率、ともに一番多いのが前立腺がんです。また、将来的には最も増加するがんの一つとして注目されています。1975年に前立腺がんを発症した患者さんは2,000人程度でしたが、2000年には約23,000人、2020~2024年(年平均)には前立腺がん罹患数は105,800人となり、男性がんのうち、第一番目の罹患数となっています。

前立腺がんの発生と原因

前立腺がんは一般的には50歳以降に発生し、特に60歳以降に直線的に増加していきます。前立腺がんの発生に関与するリスクファクターとしては、加齢、食生活の欧米化(動物性脂肪の摂取量の増加)、前立腺がんの家族歴、人種(黒人)があげられます。

前立腺の生理作用は男性ホルモン(アンドロゲン)の作用により維持されています。また、前立腺の成長や前立腺に発生する前立腺がんおよび前立腺肥大症などの病気の進行にも、男性ホルモンが関与しています。しかし、その男性ホルモンが前立腺がんの発生にも関与しているといわれていますが、その発がんのメカニズムはまだ明らかになっていません。そのため予防法も明らかになっていませんが、疫学的には古典的な日本食のように動物性脂肪の摂取を減らし、緑黄色野菜を多く摂取する食生活がよいと考えられています。

症状

早期がん

早期の前立腺がんには、がん特有の症状はありません。内腺部(移行領域)に発生し、尿道を圧迫する前立腺肥大症を合併している場合があり、前立腺肥大症に伴う症状が見られるときがあります。具体的には排尿困難、頻尿、残尿感、夜間頻尿、尿意切迫感、下腹部不快感などの症状があげられます。

局所進行がん

局所進行がんでは、上記で述べたような前立腺肥大症と同様の排尿障害を中心とした症状が認められます。その他、がんが膀胱や尿道、射精管に浸潤することにより血尿や血精液症などの症状が認められることがあります。膀胱内の尿管までがんが浸潤し尿の流れを妨げ、腎臓の機能が悪くなることがあります。

転移がん

前立腺がんは進行するとリンパ節、骨(特に胸腰椎、骨盤骨)に転移しやすいがんです。このような転移がんの場合、リンパ節転移が進行すると下肢のむくみがあらわれたり、骨に転移すると腰痛などの痛みが現れたり、さらに進行した場合には下半身麻痺を生じることがあります。

診断

PSA検査

前立腺がんの腫瘍マーカーとして、血中PSA(前立腺特異抗原)の測定は最も有用な方法です。PSAは前立腺に特異的な蛋白質です。PSAは健康なときにはほとんどが精液の安定化の役割を持って精液中に流れています。一部は、血液中に存在していますが、前立腺がんが発生すると、より多くのPSAが血液中に流れ出します。そのためPSAは非常に敏感な腫瘍マーカーといわれ、PSA検査は前立腺がんの早期発見には必須項目です。

PSA値が正常の値よりも高ければがんが疑われることになり、PSA値が高くなるにつれてがんの確率も高くなっていきます。しかし、PSA値が正常値より高値だからといって、必ずしも前立腺がんであるとは限りません。前立腺肥大症や前立腺炎でもPSA値が高値となることもあります。

PSA値が4~10ng/mlをいわゆる「グレーゾーン」といい、20~30%(当院43.2%)にがんが見つかります。10~20ng/mlは35-42%(当院71.8%)、20ng/ml~は53-75%(当院85.0%)と、より高い値では高くなるほどがんの発見率は高くなります。ただし、4ng/ml以下でも前立腺がんが発見されることがあります。

さらにPSAは前立腺がんのスクリーニング、診断に有用なだけでなく、がんの局所進展や転移とよく相関し、治療効果の判定、再発の診断などにも非常に有用です。

直腸診

古典的に行われている診断法で、肛門から指を入れて、前立腺の背側を触診することが出来ます。直腸側の前立腺の背側は、前立腺がんの好発部位である辺縁領域で、ある程度大きくなった前立腺がんでは指で触診できて、臨床的に診断することが出来ます。

経直腸的前立腺超音波検査

肛門から専用の超音波探子を挿入して、前立腺がんの可能性があるかどうか検討します。また前立腺の大きさや前立腺肥大症の有無もわかります。

前立腺MRI検査

前立腺MRI検査を行い、前立腺がんが存在するかどうかを検査します。前立腺MRI検査によって非常に細かい前立腺の構造を描出することが可能です。造影剤を使用した造影MRIによってさらに前立腺の局在診断を試みることができます。しかし、前立腺MRIによる画像診断だけでは前立腺がんの確定診断を行うことはできません。MRI検査で前立腺がんを疑う所見がある場合には、次に述べる前立腺生検を計画します。

前立腺生検

PSA値や直腸診、経直腸的前立腺超音波検査によってがんが疑われる場合、確定診断をするために、前立腺の組織を採取する前立腺生検を行い、がん細胞の有無を病理学的に診断します。前述の経直腸的前立腺超音波検査で前立腺内部を観察しながら、細い針で前立腺を刺して組織を採取します。

当院では、2泊3日の入院で12か所の経直腸的前立腺生検を行います。また、生検前には前述のMRIを施行し、検査精度向上を目指しています。

当院では、初回経直腸的前立腺生検では癌が同定できず、なお癌の存在が否定できない患者さんに対して、テンプレート(格子)を使用した、経会陰的前立腺多数箇所生検を行っています。この方法の利点として、下半身麻酔にて行うために検査時の痛みが無いこと、経会陰的(肛門と陰茎の間の皮膚経由)に行うことにより、前立腺の軸方向に平行に穿刺できるので、経直腸的な穿刺においては採取が困難な、尿道腹側、尿道背面の前立腺組織が確実に採取できること、テンプレート(格子)を使用することにより、どの部位を採取したかの確認が出来き、且つ均等に前立腺を網羅する様に多数箇所生検できることです。また、一度に沢山の組織を採取して、癌の有無の確定をされたい患者さんに対しても有効であると考えています。

グリーソンスコアについて

前立腺生検の結果、病理検査で前立腺がんの診断がされると、前立腺がんの場合、がんの細胞の構築の悪性度をグリーソンスコアという病理学上の分類を使って表します。前立腺がん特有の組織異型度分類であり、前立腺がんの治療法を選ぶ際に、重要な分類法です。

生検で採取したがん細胞の組織構造を顕微鏡で調べて、もっとも多い組織像と、2番目に面積の多い組織像を選びます。次に、それぞれの組織像を図に示す1(正常な腺構造に近い)~5(もっとも悪性度が高い)までの5段階の組織分類に当てはめます。そして、その2つの組織像のスコアを合計したものが、グリーソンスコアになります。グリーソンスコアが「6」以下は性質のおとなしい前立腺がんであり、「7」は前立腺がんの中で最も多く認められ、中程度の悪性度であり、「8」以上は悪性度の高い前立腺がんと診断されます。

グリーソンスコアの注意点は、評価する病理医により差があり、その一致率は約60%に過ぎないことです。そのため、当院にて治療を受けられ場合、他院で施行した生検組織(プレパラート)を持参していただき、当院で改めてグリーソンスコアを分類します。

画像診断

前立腺生検で前立腺がんの診断が確定すると、病気の進行度を確認するためにCT、骨シンチグラフィーを行います。これらの検査により局所(前立腺)での進行度、リンパ節転移、骨転移や肺や肝臓などの遠隔臓器への転移の有無を確認します。

病期(ステージ)

直腸診の所見と前述の画像診断の結果などにもとづいて前立腺がんの病期を決定します。前立腺がんの病期分類は少し複雑で、前立腺肥大症として経尿道的前立腺切除術(TUR-P)などの手術が行われ、その病理組織から偶然に前立腺がんが見つかった場合にはT1aとT1bと分類されます。PSA値の異常のみで、直腸診、画像診断で異常がなく、前立腺生検を行い、前立腺がんが見つかった場合にはT1cと分類されます。直腸診や画像診断で異常があり、前立腺がんと診断されるとT2以上の分類になります。

病期分類(TNM分類)は、「T:原発腫瘍」「N:リンパ節転移」「M:遠隔転移」によって、がんの進行度(広がり)を分類します。

T:原発腫瘍(前立腺でのがんの広がり)
T1触知不能、または画像診断不可能な臨床的に明らかでない腫瘍
T1a組織学的に切除組織の5%以下の偶発的に発見される腫瘍
T1b組織学的に切除組織の5%をこえる偶発的に発見される腫瘍
T1c針生検により確認される腫瘍(たとえばPSAの上昇による)
T2前立腺に限局する腫瘍
T2a片葉の1/2以内の進展
T2b片葉の1/2をこえ広がるが、両葉には及ばない
T2c両葉への進展
T3前立腺被膜をこえて進展する腫瘍
T3a被膜外へ進展する腫瘍(片葉、または両葉)
T3b精嚢に浸潤する腫瘍
T4精嚢以外の隣接組織(膀胱頸部、外括約筋、直腸、挙筋、または骨盤壁)に固定、または浸潤する腫瘍
N:所属リンパ節
N0所属リンパ節転移なし
N1所属リンパ節転移あり
M:遠隔転移
M0遠隔転移なし
M1遠隔転移あり

治療法

転移の無い前立腺がんの治療法を決定する前に、前立腺がんの危険度(リスク)の分類を行います。主に使用されているリスク分類は、AUA、EAU、NCCNの分類があり、一般的に低リスク(Low)、中間リスク(Intermediate)、高リスク(High)に分類されることが多いです。 T stage(病気の広がり)、グリーソンスコア、PSAを使用して分類されます。リスク分類が行われたあとは、リスク別の治療選択の提示がされます。様々な選択肢がある前立腺癌の治療法の中から、適切な治療法を選択することは容易ではありません。しかし、十分治療内容を理解していただき、医療者と相談して治療法を決定します。

EAUリスク分類
Low-riskIntermediate-riskHigh-risk
PSA <10
かつ グリーソン <7
かつ cT1-2a
SA 10-20
もしくは グリーソン 7
もしくは cT2b
PSA >20
もしくは グリーソン >7
もしくは cT2c
cT3-4 もしくは cN+
PSA, グリーソンは問わず
局所がん局所進行がん

転移のある前立腺がんの治療は、薬物療法(ホルモン治療)が中心となります。病気の状態によって薬を選択します。また転移の数、部位によっては放射線外照射などの治療を追加することがあります。

ホルモン治療の効果がなくなると去勢抵抗性前立腺がんとなります。その場合は、新規ホルモン治療薬、抗がん剤の治療を行います。また、BRCA遺伝子の変異がある場合はPARP阻害剤(オラパリブ)を使用します。さらに高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI high)が網羅的遺伝子検査にて見つかった場合、免疫チェックポイント阻害剤(キイトルーダ)を使用します。

以下、当院で施行している治療法の説明です。

監視療法

まず、治療介入を希望するかどうかが議論されます。治療介入を希望しないのであれば、経過観察(監視療法)になります。前立腺がんの中には早期の治療開始を要しない場合があり、無治療でも進行がゆっくりである場合は寿命に悪影響を及ぼさない可能性もあります。過剰な治療を回避することを目的とした「監視療法」があります。もちろん治療をしないとがんは進行しますが、必要な治療タイミングを逃さないように「監視」をしていきます。必要な時期に治療を開始するのが「監視療法」です。おとなしく、転移がなく、前立腺にとどまった小さながんが適応になります。

適切なタイミングで治療開始ができるように、定期的なPSA測定、1-3年ごとの前立腺生検が必要となります。

手術療法(ロボット補助下前立腺全摘除術)

基本的には手術によって根治が期待できる症例に対して行います。前立腺を精嚢腺とともに摘出し、膀胱と尿道を吻合する手術です。症例によって所属リンパ節も郭清します。がんが前立腺にとどまっており、大きな合併症もなく期待余命が10年以上ある場合よい適応とされ、T1~T2N0M0、およびT3aN0M0の一部が手術の適応となります。

手術の方法には開腹手術やロボット補助下腹腔鏡手術があります。当院ではロボット補助下前立腺全摘除術を、積極的に行っています。

入院期間は、11日間で、手術時間は3時間程度です。

本手術の合併症として、尿失禁と性機能障害がありますが、尿失禁に対しては、骨盤底筋体操、薬物投与で対処します。術後3〜6ヶ月で90%以上の患者さんが尿パッドのいらない状態まで改善します。性機能障害についてですが、前立腺全摘除術では前立腺、精嚢腺が摘出されるため、射精は出来なくなります。勃起を支配する神経を温存すれば、勃起機能を温存できる可能性がありますが、合併切除すれば勃起障害も起こります。

放射線治療

放射線を用いて、がん細胞の遺伝子を破壊し、がん細胞の分裂や増殖を抑えて、がん細胞を死滅してしまう方法です。放射線治療の進歩に伴い、いろいろな方法が登場してきています。当院では、放射線外照射と密封小線源治療を施行しています。

外照射法

転移のない前立腺がん、すなわち早期がんから局所進行がん(T1N0M0~T4N0M0)に対して、体の外から高エネルギーのX線を前立腺に照射して治療する方法です。多くの放射線量を照射可能な、強度変調放射線治療(IMRT)を中心に治療を行っています。従来は1日2Gyを週5回行い、合計37~39回で約8週間の治療で、74~78Gyの外照射を行っていましたが、近年寡分割照射の有用性が示されたため、1日3Gyを週5回行い、合計20回で約4週間の治療で、60Gyの照射を行っております。これにより外来通院、入院治療の時間が短縮され、より治療を受けやすい条件となっております。

放射線照射の前後にホルモン治療を併用することが多いです。

副作用には頻尿、排尿時痛、血尿などの尿路の症状や頻便、排便時痛、直腸出血などが起こることがありますが、いずれも軽度であることが多く、通常は通院で治療しています。放射線治療の特徴として、数年経過して生じる血尿、下血等の晩期合併症があります。

また当センターでは、前立腺全摘術後のPSA再発に対して、積極的に外照射による救済放射線治療を行っています。早期の術後PSA再発の判断し、救済放射線治療を行うことにより、良好な成績を認めています。

組織内照射法(密封小腺源療法)

放射線を放出する物質(ヨウ素125)を密封した小さな線源を、前立腺の中に永久的に埋め込み照射する方法です。治療は3泊4日の入院で腰椎麻酔下にて行われます。超音波の探子を直腸内に挿入し、前立腺を観察しながら、会陰部(陰のうと肛門の間)より針を穿刺し、前立腺内にヨウ素125を密封した線源を、前立腺の体積に応じて50~100個程度、永久的に挿入します。また、直腸への放射線照射を減らす目的で、前立腺と直腸の間にスペーサー(ハイドロゲル直腸周囲スペーサー)を挿入します。挿入された線源から体の外へ放出される放射能はごくわずかで、日常生活にほとんど制約はありません。治療後約1年で放射能放出はなくなります。

この治療の適応は前立腺内にとどまった早期の前立腺がんの中でも、悪性度の低いものがより適応とされています。低リスクおよび中リスクの一部の症例は小線源単独治療、中リスクの症例は小線源治療に外照射法を併用して行います。高リスクの症例は、小線源治療、外照射、ホルモン治療の3つを併用した治療を考慮します。排尿障害が強い、前立腺が大きい前立腺肥大症の手術歴がある、コントロール不良な糖尿病がある場合等で適応とならないことがあります。

合併症は、外照射と同様です。特有の合併症として、一過性の排尿困難があり、投薬により症状緩和をはかります。直腸障害(下痢、下血)はスペーサーを挿入することにより、軽減できることが期待できます。

内分泌治療(ホルモン療法)

前立腺がんは、精巣および副腎から分泌される男性ホルモンによって増殖していきます。内分泌療法(ホルモン療法)は、男性ホルモンの分泌抑制や働きを遮断することによって、前立腺がん細胞の増殖を抑制する治療法です。

内分泌治療には外科的去勢(精巣摘除術)と薬物療法があります。薬物用法には注射と飲み薬があります。注射はLH-RH agonistもしくはantagonist、と呼ばれる皮下注射です。これを1~6ヶ月毎に注射をすることにより男性ホルモンの分泌を抑制します。また飲み薬は、男性ホルモンの前立腺がん細胞に対する働きを遮断する抗男性ホルモン剤(抗アンドロゲン剤)を内服します。

内分泌治療の適応は、転移のあるがん、放射線治療との併用、再発時の治療です。

副作用は、ほてり、のぼせ、急な発汗などのホットフラッシュと呼ばれる症状、女性化乳房、性欲低下、勃起障害、肝機能障害、骨粗しょう症、糖尿病の悪化、心血管イベントなどがあります。

内分泌治療は迅速に効果が認められますが、長期間治療を継続していると、徐々に効果が得られなくなり、去勢抵抗性前立腺がんと呼ばれる状態となります。去勢抵抗性前立腺がんに対しては、抗男性ホルモン剤の変更や、抗がん剤の投与が行われますが、持続的な効果が得られることは少なく、治療に苦慮します。このように内分泌治療は有効な治療法ですが、これのみで完治することは難しいと言われています。

化学療法

去勢抵抗性前立腺がんや、はじめから内分泌治療が効かない症例に行います。ドセタキセルに効果が不十分な場合、カバジタキセルという薬剤を使用することが可能です。

副作用は、骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少)、発熱、間質性肺炎、浮腫、倦怠感、脱毛などがあります。初回は入院で行いますが、2回目以降は外来通院で行います。

PARP阻害剤

遺伝子修復すること(相同組み換え修復、DNA二本鎖切断修復に関連)に関連するBRCA1、BRCA2遺伝子に異常がある場合に、PARP阻害剤が使用できます。PARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)とはDNA一本鎖切断の修復に関連しています。BRCA1/2遺伝子に変異を認める場合は、PARPの働きを止めることにより、がん細胞死が生じます。

すべての症例が適応になるわけではありません。去勢抵抗性前立腺がん時に、血液もしくは組織の遺伝子を検査し、BRCA1/2遺伝子変異が確認できた場合、使用可能となります。

免疫チェックポイント阻害剤

がん細胞は免疫細胞の一つであるT細胞の活動を抑制することで生き残っていることが分かっています。その際にがん細胞はPD-1というT細胞表面のタンパク質に関係する経路を使っています。免疫チェックポイント阻害薬はPD-1経路を阻害し、その結果T細胞は再び活動を開始してがん細胞を攻撃します。すべての症例が適応になるわけではありません。前立腺がん組織を検査し、高頻度マイクロサテライト不安定性が高頻度で確認できた場合、使用可能となります。

内部放射線治療

臓器転移を有していない、骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がんに対して、ラジウム-223(商品名:ゾーフィゴ)があります。骨転移部などの代謝が活発になっている骨に薬剤が集まり、そこから放出される放射線(アルファ線)が骨に転移したがん細胞の増殖を抑えます。1ヶ月に一度6ヶ月を限度に、静脈内投与を行います。

再発の診断と治療

PSA再発

それぞれの治療を行った結果、一度低下したPSA値が再び上昇してきた状態です。PSA値の上昇が再発の最初の兆候であるため、治療後は定期的にPSA値を測定し、その推移を確認します。通常、PSA再発が認められなければ、臨床的な再発もないため、それ以上の画像診断を行うことは不要と考えられています。PSA再発に定義は、治療法によりことなり、放射線治療(PSA>2.0ng/ml)、内分泌治療(PSA>2.0ng/ml)、手術療法(PSA>0.2ng/ml)と考えられています。

臨床的再発

治療後に明らかな局所再発や遠隔転移が出現した状態であり、もしくは治療後落ち着いていた病巣の増大や悪化、新病変の出現が認められた状態です。去勢抵抗性前立腺がんとなったのちには、CT、骨シンチグラフィーを定期的に行います。通常、PSA再発が先行して起こり、それに続いて臨床的再発を認めます。その状況に応じて様々な治療が選択されます。

治癒率、生存率

前立腺がんの予後も、他のがんと同様に病期が進行するほど予後は悪くなります。また全身状態や年齢、がんの悪性度、さらに選択された治療法によっても左右されますが、全体的には前立腺がんは進行が遅いため、治療成績は比較的良好です。

当センターにおいて過去13年間で、T1~3N0M0に行った手術症例の5年生存率は98.7%で、5年PSA非再発率(PSA再発しない確率)は69.0%です。

外照射(IMRT)の10年生存率は91%で、10年PSA非再発率は82%です。遠隔転移のある前立腺がんは、転移のない前立腺がんと比較して予後不良であり、5年生存率は30-40%程度といわれています。

最近の手術手技の向上、放射線治療の進歩、薬剤の開発に伴い、今後治療成績の更なる向上が期待されています。