当センターについて

上咽頭がん

上咽頭がんとは

上咽頭は咽頭の最も頭側に位置する部位であり、前方は鼻腔、尾側は中咽頭につながっています。頭側には頭蓋底があり、脳や脳幹、脳神経に近い位置にあります。後上壁、側壁、下壁の3つの亜部位に分けられており、側壁から発生することが多いです。

上咽頭がんは人口10万人あたりのおよそ1人のまれな癌ですが、中国南部や東南アジアに多く発生する地域があります。日本では年間300-400人ほどが罹患されます(1)。発症のピークは15~39歳の低年齢層(AYA世代)と60歳台の2峰性となっています。ほかの頭頸部癌と異なり、女性や低年齢層に多く、エプスタイン・バールウイルス(EBウイルス)が発症に関与しています。

上咽頭がんの症状

初期は自覚症状がない場合も多く、発見時には頸部リンパ節転移を認めることが多いです。他に、鼻の症状(鼻閉感、鼻出血)、耳の症状(耳閉感、難聴、中耳炎)などがあります。進行した場合は頭痛や様々な脳神経の症状(視力障害、複視、開口障害、嚥下障害など)が起こることもあります。

上咽頭がんの検査・診断

鼻咽頭内視鏡検査を行い、生検を行うことで診断します。血液検査では、EBウイルス抗体価が高値となるのが特徴です。腫瘍の広がりを確認するため全身のCT、MRI、PET-CT検査を施行します。

上咽頭がんの病期

Tis上皮内癌
T1上咽頭に限局する腫瘍
T2傍咽頭間隙へ進展する腫瘍
翼突筋や椎前筋に浸潤する腫瘍
T3頭蓋底骨構造、頚椎、翼状突起、副鼻腔に浸潤する腫瘍
T4頭蓋内に進展する腫瘍
脳神経、下咽頭、眼科、耳下腺に浸潤する腫瘍
外側翼突筋の外側を超えて浸潤する腫瘍
N0領域リンパ節転移なし
N1輪状軟骨尾側より上方の、片側頸部リンパ節転移
片側あるいは両側の咽頭後リンパ節転移
リンパ節転移は6cm以下
N2輪状軟骨尾側縁より上方の、両側頸部リンパ節転移
リンパ節転移は6cm以下
N36cmを超える頸部リンパ節転移
輪状軟骨尾側縁より下方の頸部リンパ節転移
M0遠隔転移なし
M1遠隔転移あり

病期(上咽頭)

0期Tis N0 M0
Ⅰ期T1 N0 M0
Ⅱ期T1 N1 M0、T2 N0-1 M0
Ⅲ期T1-2 N2 M0、T3 N0-2 M0
ⅣA期T4 N0-2 M0、Tany N3 M0
ⅣB期Tany Nany M1

上咽頭がんの治療

低分化型の扁平上皮癌が多いため、放射線治療や化学療法(薬物療法)の感受性が高く、また解剖学的に手術の難しい位置にあるため、放射線治療が治療の中心となります。放射線治療は70Gy/7週間(2Gy×35回)が一般的です。Ⅰ期は放射線単独で、Ⅱ期以上ではシスプラチンなど、プラチナ系の抗癌剤同時併用が標準治療です。さらにⅢ-ⅣA期の高度進行例では同時化学放射線療法以外に導入化学療法や追加化学療法を併用することもあります。一方遠隔転移があるⅣB期では、延命を目指した化学療法が治療の主体となります。

治療に伴う早期有害事象(治療開始後90日以内)を示します。

  1. 放射線治療開始から2-3週経過:味覚障害出現(治療後半は味覚消失)
  2. 放射線治療開始から3-4週経過:粘膜炎、皮膚炎、唾液腺障害出現
  3. 放射線治療開始から4週以降:重度粘膜炎、重度皮膚炎、疼痛、嚥下障害、摂食不良
  4. 放射線治療終了して2-4週経過:粘膜炎や皮膚炎が徐々に軽快するが、味覚障害や唾液腺障害は持続(晩期有害事象へ)

治療に伴う晩期有害事象(治療開始90日以降)を示します。

味覚障害、唾液腺障害:回復までの期間には個人差があり、1年~3年かかると言われています。

他に顎骨壊死、聴力低下、内分泌障害、側頭葉壊死、脳神経障害などがあります。特に顎骨壊死は抜歯で起こりやすいため、照射後の抜歯は禁忌となります。

当院では上咽頭がんの治療は放射線治療部と薬物療法部が主体となって行っています。

予後

上咽頭癌は放射線治療や化学療法の感受性が高いため、他の頭頸部癌と比べると良好な治療成績を示します。これまでの第3相試験をまとめたメタアナリシスによると、化学療法の併用によって、放射線治療単独より5年生存率が6.3%向上することが分かっています(2)。病期別の5年生存率は、Ⅰ-Ⅱ期は90%程度、Ⅲ期は70-80%、ⅣA期は60-70%と報告されています(2, 3)。

引用文献

  1. 一般社団法人頭頸部癌学会全国悪性腫瘍登録報告書2016~2020年
  2. Blanchard P, et al. Lancet Oncology. 2015:16(6):645-55
  3. Sun X, et al. Radiotherapy and Oncology. 2014:110(3):398-403