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中咽頭がん

中咽頭がんについて

解剖

中咽頭は上咽頭と下咽頭の間に位置し、口蓋垂根部から喉頭蓋谷までの範囲を指します。この領域は大きく4つの亜部位に分けられ、がんが発生しやすい順に、側壁(口蓋扁桃など)、前壁(舌根部)、上壁(軟口蓋から口蓋垂)、後壁となります。

嚥下機能は中咽頭がん治療において大きな問題となります。嚥下時、軟口蓋が挙上して上咽頭の閉鎖を行い、咽頭収縮筋の収縮と舌根の後方移動によって食物は下咽頭から食道へ送られます。また、中咽頭はリンパ組織が豊富な部位であり、微小な病変であってもリンパ節転移を起こすことがあります。このため、原発不明がんと診断されることもあります。

疫学

日本頭頸部癌学会の頭頸部悪性腫瘍全国登録(2016年度)によれば、頭頸部がんの原発部位別頻度において中咽頭がんは16.9%を占めています。

従来、頭頸部がんの主な原因は長年、喫煙や飲酒とされてきましたが、近年、中咽頭がんにおいてはヒトパピローマウイルス(HPV)が発がんに関与していることが知られるようになってきました。中咽頭がんは、喫煙や飲酒が原因のHPV陰性中咽頭がんと、HPVの持続感染が原因のHPV関連中咽頭がんに大別されます。この2つは異なる疾患概念として扱われ、UICCの病期分類においても区別されています。

症状

近年、上部消化管内視鏡検査などで偶然発見されることが多く、無症状のうちに診断されることがあります。進行すると、違和感、咽頭痛、出血、嚥下障害が生じることがあります。中には気道狭窄を来し、呼吸困難や気管切開を要する場合もあります。

診断

診断には、視診、触診、喉頭ファイバー、組織生検、CT、MRI、PET/CTを行います。生検により中咽頭組織からがんが証明されれば確定診断となります。扁桃における病変では、粘膜に異常がない場合もあるため、粘膜を切開し深部からの生検が必要となることがあります。組織生検では、HPV関連の有無によって病期が変わるため、サロゲートマーカーであるp16の免疫染色を行います。UICCの病期分類でも、PCRの結果にかかわらず、p16免疫染色の陽性・陰性で病期が分けられます。

病期

病期は、TNM分類に基づいています。

T1-T2は腫瘍の最大径によって分類されます。T3-T4は周囲組織への浸潤を伴うことが多く、リンパ節転移は腫瘍の進行に伴い増加します。転移は片側に限らず、両側にも認められる場合があります。遠隔転移は初診時には稀ですが、肺や骨に多くみられ、PET検査が有用です。

中咽頭癌TNM分類(UICC第8版)​​​​

p16陰性 または p16免疫染色を行っていない中咽頭癌

T-原発腫瘍​
Tis上皮内癌
T1最大径が2cm以下の腫瘍
T2最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
T3最大径が4cmをこえる腫瘍、または喉頭蓋舌面へ進展する腫瘍
T4a次のいずれかに浸潤する腫瘍:喉頭、舌深層の筋肉/外舌金(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)、内側翼突筋、硬口蓋、または下顎骨
T4b次のいずれかに浸潤する腫瘍:外側翼突筋、翼状突起、上咽頭側壁、頭蓋底、または頸動脈を全周性に取り囲む腫瘍
N-領域リンパ節
N0領域リンパ節転移なし
N1同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下かつ節外浸潤なし
N2a同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下かつ節外浸潤なし
N2b同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下かつ節外浸潤なし
N2c両側または対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下かつ節外浸潤なし
N3a最大径が6cmをこえるリンパ節転移で節外浸潤なし
N3b単発性または多発性リンパ節転移で臨床的節外浸潤あり
M-遠隔転移
M0遠隔転移なし
M1遠隔転移あり

p16陽性 中咽頭癌

T-原発腫瘍​
T1最大径が2cm以下の腫瘍
T2最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
T3最大径が4cmをこえる腫瘍、または喉頭蓋舌面へ進展する腫瘍
T4次のいずれかに浸潤する腫瘍:喉頭、舌深層の筋肉/外舌金(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)、内側翼突筋、硬口蓋、下顎骨、外側翼突筋、翼状突起、上咽頭側壁、頭蓋底、または頸動脈を全周性に取り囲む腫瘍
N-領域リンパ節​
N0領域リンパ節転移なし
N1一側のリンパ節転移で最大径が3すべて6cm以下
N2対側または両側のリンパ節転移で最大径がすべて6cm以下
N3最大径が6cmをこえるリンパ節転移
M-遠隔転移​
M0遠隔転移なし
M1遠隔転移あり

病期分類

​p16陰性 または p16免疫染色を行っていない中咽頭癌​

0期Tis N0 M0
Ⅰ期T1 N0 M0
Ⅱ期T2 N0 M0
Ⅲ期T3 N0 M0、T1-3 N1 M0
ⅣA期T1-3 N2 M0、T4a N0-2 M0
ⅣB期T4b Nany M0、Tany N3 M0
ⅣC期Tany Nany M1

p16陽性 中咽頭癌

0期Tis N0 M0
Ⅰ期T1-2 N0-1 M0
Ⅱ期T1-2 N2 M0、T3 N0-2 M0
Ⅲ期T1-3 N3 M0、T4 Nany M0
Ⅳ期Tany Nany M1

治療

治療

中咽頭がんの治療には主に手術と(化学)放射線療法があります。嚥下機能への影響を考慮しながら、根治性と機能温存のバランスを取った治療選択が求められます。当院では、頭頸部外科、放射線治療、薬物療法の専門チームがカンファレンスを行い、最適な治療方針を決定しています。

手術

内視鏡手術は臓器温存を目的として発展しており、経口的手術では咽喉頭部分切除術(TOVS)や内視鏡的咽喉頭手術(ELPS)が広く普及しています。これに加え、ロボット支援手術(TORS)が保険適用となり、さらに術後機能の向上が期待されています。

再建手術は、進行が進んだ中咽頭がんで用いられ、放射線治療が不可能な場合や、化学療法が困難な場合に実施されることが多いです。術後は嚥下機能の評価とリハビリが必要です。

放射線治療

中咽頭がんは放射線に対して比較的高い感受性を持っています。局所進行例では化学放射線療法が標準治療とされ、IMRTによる照射法が用いられることが多いです。HPV陽性中咽頭がんは治療成績が良好ですが、若年層に多く、長期的な放射線晩期障害が課題となっています。

引用文献

  1. 全国登録2016年度初診症例の報告. URL:
  2. http://www.jshnc.umin.ne.jp/pdf/2016syourei_houkoku.pdf
  3. 頭頚部癌診療ガイドライン2022年版、日本頭頚部癌学会編者、金原出版、2022年
  4. Nichols AC, et al. Radiotherapy versus transoral robotic surgery and neck dissection for oropharyngeal squamous cell carcinoma (ORATOR): an open-label, phase 2, randomised trial. Lancet Oncol. 20(10). 2019: 1349-1359.