喉頭がん
喉頭がんとは
喉頭は咽頭と気管をつなぐ臓器であり、「のどぼとけ」として首の表面から触れることができます。喉頭の主な機能は発声と嚥下です。喉頭には声帯があり、声帯を震わせることで声を出すことができます。また、食べ物が口からのどに入る際、喉頭蓋という蓋が倒れて気道を閉じることで、食物が誤って気管へ入ることを防ぎ、誤嚥を起こさないようにしています。
日本の喉頭がんの罹患率は4.1人/10万人であり、男性は女性に比べて罹患率が10倍以上高いです。飲酒と喫煙が主要なリスク因子とされ、50代ごろから罹患率が増加し、70-80代でピークとなります。(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」地域がん登録2019年全国推計値より)
喉頭がんは発生する場所によって、以下の3つに分類されます。
- 声門上部(声帯より上側)
- 声門(声帯の位置)
- 声門下部(声帯より下側)
喉頭がんの症状
喉頭がんの症状はどの部位にがんできるかによって、異なっています。
- 声門上がんや声門下がん:早期の段階では症状が少なく、がんが進行してから痛みや嚥下障害、呼吸困難感などの症状がみられることがあります。
- 声門がん:早期から声のかすれ出現するため、早期に発見されることが多いです。
喉頭がんの検査・診断
喉頭がんは、喉頭内視鏡や上部消化管内視鏡(胃カメラ)で発見されることが多いです。その後、喉頭内視鏡を用いた生検を行うことで、病理学的に喉頭がんの診断をつけることができます。また、がんの広がりを確認するためにCT、MRI、PET-CTなどの画像検査を行います。これらの検査により、以下のようにがんの進行度(病期、ステージ)を決定します。
喉頭がんの病期
TNM分類(UICC第8版)喉頭癌
T分類
Tx | 原発腫瘍の評価が不可能 |
---|---|
Tis | 上皮内癌 |
T1 | 下咽頭の1亜部位に限局、および/または最大径2cm以下 |
T2 | 最大径が4cm以下、または下咽頭の2亜部位以上や隣接部位に浸潤 |
T3 | 最大径が4cmをこえる、または片側喉頭の固定、食道粘膜に進展 |
T4a | 甲状軟骨、輪状軟骨、舌骨、甲状腺、食道筋層、喉頭外進展(頸部正中軟部組織) |
T4b | 椎前筋膜、縦隔構造、頸動脈浸潤(全周性) |
N分類
NX | 領域リンパ節転移の評価が不可能 |
---|---|
N0 | 領域リンパ節転移なし |
N1 | 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下かつ節外浸潤なし |
N2a | 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下かつ臨床的節外浸潤なし |
N2b | 同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下かつ臨床的節外浸潤なし |
N2c | 両側または対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下かつ臨床的節外浸潤なし |
N3a | 最大径が6cmをこえるリンパ節転移で臨床的節外浸潤なし |
N3b | 単発性または多発性リンパ節転移で臨床的節外浸潤あり |
M分類
MX | 遠隔転移の評価が不可能 |
---|---|
M0 | 遠隔転移なし |
M1 | 遠隔転移あり |
病期
0期 | Tis | N0 | M0 |
---|---|---|---|
Ⅰ期 | T1 | N0 | M0 |
Ⅱ期 | T2 | N0 | M0 |
Ⅲ期 | T3 | N0 | M0 |
T1, T2, T3 | N1 | M0 | |
ⅣA期 | T4a | N0,N1 | M0 |
T1, T2, T3, T4a | N2 | M0 | |
ⅣB期 | T4b | Nに関係なく | M0 |
Tに関係なく | N3 | M0 | |
ⅣC期 | Tに関係なく | Nに関係なく | M1 |
喉頭がんの治療
(注:ここでは主に初回治療について解説し、再発・転移がんに対する治療は省略しています。)
喉頭がんの治療は、がんの進行度(ステージ)や患者さんの全身状態、年齢、希望に基づいて決定されます。
- 早期喉頭がん(stageⅠ/Ⅱ):放射線治療または喉頭温存手術などの、喉頭機能の温存を目指した治療が選択されることが多いです。
- 進行喉頭がん(stageⅢ/Ⅳ):手術を行う場合は、年齢や全身状態を考慮し喉頭温存手術か喉頭全摘出術かを決定します。StageⅣの喉頭がんには喉頭全摘術が選択されることが多いです。患者さんの喉頭温存希望が強い時には、抗がん剤と放射線治療を併用する化学放射線療法も選択肢となります。患者さんの生活の質に強い影響を与えるため、治療法については患者さんやご家族と十分に話し合って決定していきます。
手術治療
喉頭がんの手術は喉頭温存手術と喉頭全摘出術に大別されます。
喉頭温存手術
経口的切除術
主に早期喉頭がんが適応となります。喉頭を内視鏡や顕微鏡で観察しながら、口からがんを切除します。喉頭機能の温存を目指した治療です。当院では、経口的レーザー手術(Transoral laser microsurgery:TLM)、経口的咽喉頭部分切除術(Transoral videolaryngoscopic surgery:TOVS)を主体に、病変によってはダビンチサージカルシステムを用いた経口的ロボット手術(Transoral Robotic Surgery:TORS)を行っています。
喉頭部分切除術
主に早期喉頭がんが適応となります。首の皮膚切開を行い、がんを喉頭の一部を含めて切除していきます。声の質は低下しますが、声帯が部分的に温存されるため発声が可能です。一時的に気管切開が必要となることがあります。腫瘍の進展範囲、年齢、誤嚥リスクを十分に検討したうえで手術適応を判断します。
喉頭亜全摘出術
がんを喉頭の多くの部分とともに切除します。声の質が低下するものの発声は可能です。喉頭構造の変化にともない誤嚥のリスクが高まるため、年齢や合併症などを考慮して手術適応を判断します。
喉頭全摘出術
がんを喉頭のすべての構造とともに摘出します。そのため、声帯を使った発声は不能となります。手術後は、首の前面の永久気管孔という穴から呼吸を行うことになります。当院では、代用発声法として、電気式人工喉頭、食道発声、ボイスプロテーシスを用いたシャント発声などのサポートを行っています。
放射線治療
喉頭機能の温存を目指した治療です。体の外から放射線を当てることで、がんを治療していきます。早期喉頭がんでは放射線治療単独で治療を行います。一方、進行喉頭がんに対しては、放射線治療と抗がん剤を併用する化学放射線療法が選択されることが一般的です。喉頭の発声機能は温存されますが、特に化学放射線療法においては、飲み込みの障害(嚥下障害)などが問題となることがあります。
導入化学療法
手術や放射線治療などの前に行う抗がん剤治療を導入化学療法といいます。喉頭温存を目指す場合に、一部の進行喉頭がんに対して行うことがあります。
当院では、頭頸部外科・放射線治療部(放射線治療を共に担当するグループ)・薬物療法部(薬物での治療を共に担当するグループ)でのカンファレンスを行い、最適な治療を検討して方針を決定します。
引用文献
- 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
- 頭頸部癌診療ガイドライン2022年版、日本頭頸部癌学会、金原出版、2022年
- TNM悪性腫瘍の分類 第8版 日本語版 金原出版、2017年