当センターについて

下咽頭がん

下咽頭がんとは

下咽頭とは、のどの最も下の部分で、飲食物の通り道になります。上側には中咽頭、下側には食道、前には喉頭と甲状腺、後ろには頸椎(背骨)があります。その中でも喉頭は、発声という社会生活における重要な機能に関与しています。

日本の頭頸部がん全体に占める下咽頭がんの割合は約23%です。好発年齢は60~80代で、男女比は11:1で日本では男性が圧倒的に多い病気です。症状が出にくい部位のため、進行した状態で発見されることも多いです。しかし、内視鏡技術の進歩とともに、より早期の状態で発見されることも多くなってきています。飲酒や喫煙が主要なリスク因子とされています。

下咽頭がんの症状

進行すると、飲み込むときの違和感、のどの痛み、飲み込みにくさ、声のかすれ、息苦しさなど様々な症状を認めるようになります。逆に、早期がんの状態ではこれらの症状は乏しいために、自覚症状がきっかけで発見されることは少ないです。

下咽頭がんの検査・診断

下咽頭がんは、喉頭内視鏡や胃カメラで発見されることが多いです。その後、喉頭内視鏡を用いた生検を行うことで、病理学的に下咽頭がんの診断をつけることができます。また、がんの広がりを確認するためにCT、MRI、PET-CTなどの画像検査を行います。下咽頭がんと診断された場合、同時に食道がんを併発していることも多いため、ほとんどの場合で、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を行います。これらの検査により、以下のようにがんの進行度(病期、ステージ)を決定します。

下咽頭がんの病期

TNM分類(UICC第8版)​​​​下咽頭癌

T分類

Tx原発腫瘍の評価が不可能
Tis上皮内癌
T1下咽頭の1亜部位に限局、および/または最大径2cm以下
T2最大径が4cm以下、または下咽頭の2亜部位以上や隣接部位に浸潤
T3最大径が4cmをこえる、または片側喉頭の固定、食道粘膜に進展
T4a甲状軟骨、輪状軟骨、舌骨、甲状腺、食道筋層、喉頭外進展(頸部正中軟部組織)
T4b椎前筋膜、縦隔構造、頸動脈浸潤(全周性)

N分類

NX領域リンパ節転移の評価が不可能
N0領域リンパ節転移なし
N1同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下かつ節外浸潤なし
N2a同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下かつ臨床的節外浸潤なし
N2b同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下かつ臨床的節外浸潤なし
N2c両側または対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下かつ臨床的節外浸潤なし
N3a最大径が6cmをこえるリンパ節転移で臨床的節外浸潤なし
N3b単発性または多発性リンパ節転移で臨床的節外浸潤あり

M分類

MX遠隔転移の評価が不可能
M0遠隔転移なし
M1遠隔転移あり

病期

0期Tis N0 M0
Ⅰ期T1 N0 M0
Ⅱ期T2 N0 M0
Ⅲ期T3 N0 M0T1-3 N1 M0
ⅣA期T4a N0-1 M0T1-3 N2 M0
ⅣB期Tany N3 M0T4b Nany M0
ⅣC期Tany Nany M1

下咽頭がんの治療

(注:ここでは主に初回治療について解説し、再発・転移がんに対する治療は省略しています。)

下咽頭がんの治療は、がんの進行度(病期、ステージ)や患者さんの全身状態、年齢、希望に基づいて決定されます。下咽頭は発声に関与する喉頭に隣接しているため、治療により発声機能が失われる可能性があります。そのため、医師と患者で十分相談して、根治性と発声機能のバランスがとれた治療を選択していく必要があります。

  • 早期下咽頭がん(Ⅰ/Ⅱ期):放射線治療または下咽頭部分切除術などの、発声機能の温存を目指した治療が選択されることが多いです。
  • 進行下咽頭がん(Ⅲ/Ⅳ期):手術を行う場合は、年齢や全身状態を考慮し隣接する喉頭の発声機能を温存可能か判断します。患者さんの喉頭温存希望が強い時には、抗がん剤と放射線治療を併用する化学放射線療法も選択肢となります。ただし、StageⅣの下咽頭がんには咽喉頭摘出術が選択されることが多いです。その場合、患者さんの生活の質に強い影響を与えるため、治療法については患者さんやご家族と十分に話し合って決定していきます。

手術治療

下咽頭がんの手術は、喉頭を温存する下咽頭部分切除術と咽喉頭摘出術に大別されます。

下咽頭部分切除術

経口的切除術

主に早期下咽頭がんが適応となります。下咽頭を内視鏡で観察しながら、口からがんを切除します。喉頭の発声機能の温存を目指した治療です。当院では、内視鏡的咽喉頭手術(Endoscopic laryngo-pharyngeal surgery:ELPS)、経口的咽喉頭部分切除術(Transoral videolaryngoscopic surgery:TOVS)を主体に、病変によってはダビンチサージカルシステムを用いた経口的ロボット手術(Transoral Robotic Surgery:TORS)を行っています。

下咽頭部分切除術

主に早期下咽頭がんが適応となります。首の皮膚切開を行い、がんを下咽頭の一部を含めて切除していきます。喉頭を温存するため発声機能を維持することができます。切除した部分は、縫い閉じる場合と体の別の部分から皮膚や皮下組織を移植して閉じる場合があります。一時的に気管切開が必要となることがあります。腫瘍の進展範囲、年齢、誤嚥リスクを十分に検討したうえで手術適応を判断します。

下咽頭・喉頭摘出術

がんを下咽頭と隣接する喉頭とともに摘出します。そのため、声帯を使った発声は不能となります。下咽頭の一部のみを切除した場合は、切除した咽頭の粘膜欠損部を縫い閉じることが多いです。一方、下咽頭を全摘出した場合は、空腸(小腸の一部)を使って再建します。手術後は、首の前面の永久気管孔という穴から呼吸を行うことになります。当院では、代用発声法として、電気式人工喉頭、ボイスプロテーシスを用いたシャント発声などのサポートを行っています。

放射線治療

喉頭の発声機能の温存を目指した治療です。体の外から放射線を当てることで、がんを治療していきます。早期下咽頭がんでは放射線治療単独で治療を行います。一方、進行下咽頭がんに対しては、放射線治療と抗がん剤を併用する化学放射線療法が選択されることが一般的です。喉頭の発声機能は温存されますが、特に化学放射線療法においては、飲み込みの障害(嚥下障害)などが問題となることがあります。


当院では、頭頸部外科・放射線治療部(放射線治療を共に担当するグループ)・薬物療法部(薬物での治療を共に担当するグループ)でのカンファレンスを行い、最適な治療を検討して方針を決定します。

引用文献

  1. 日本頭頸部癌学会編 頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版 金原出版
  2. 全国悪性腫瘍登録報告書. 日本頭頸部癌学会2020年
  3. TNM悪性腫瘍の分類 第8版 日本語版 金原出版、2017年