がん医療の最先端を切り拓くリーダーに聞く(泌尿器科部)
泌尿器科腫瘍を専門としている、小島崇宏泌尿器科部長です。
Q:泌尿器科部を紹介してください。
泌尿器科部は、前立腺、膀胱、腎臓、精巣、腎盂尿管など尿路に発生した悪性腫瘍の診断と治療を行っています。排尿および、男性機能に関連する臓器を扱うため、根治とともに、生活の質(QOL*Quality of Life)を維持できることを念頭に治療を行っています。総合がんセンターである強みを生かして、薬物治療や放射線治療など他の診療部門の専門家とも連携し一丸となって診療にあたっています。
Q:実際にどのような治療が行われるのでしょうか?
早期がんでは、がんの根治と機能温存を目指し、患者さんの体への負担が少ない低侵襲手術を中心に行っています。腹腔鏡手術やロボット支援下の手術がそれにあたります。出血が少なく、手術の傷口が小さいため高齢者や合併症のある方、体力的に通常の手術が難しい方でも手術が可能になります。ロボット手術は、ロボットが自動ですべてを進める手術ではありません。ロボット手術の認定医がコントローラーを操作しますが、ロボットのアームの先についた器具は、腹腔鏡手術よりも可動域が広く、より正確で細かい手術ができるという利点があります。愛知県がんセンターでは前立腺がん、腎がんに加え2021年からは膀胱がんもロボット支援による手術が可能になっています。がんが早期に発見された場合、多くが根治を目指すことができ、治療後の生活の質も重要です。手術は避けたい、臓器はできるだけ残したいなど患者さんの様々なニーズに対応できるよう、腎がんには多方向からがんに集中的に放射線をあてて正常な細胞への影響を最小限に抑える「定位放射線治療」を、また膀胱がんにおいては、放射線と薬物治療を組み合わせた治療による「膀胱温存治療」も行っています。
他への転移がない局所進行がんにおいては、治療後の再発をできるだけ減らすことが重要になります。放射線治療部や薬物療法部と連携し、手術や抗がん剤、放射線治療を組み合わせてがんの再発や転移を食い止め、治療成績の向上を目指します。また病気の広がりにより広範囲な手術が必要であれば、他の診療科と合同で拡大切除を行い、がんの根治を目指します。
進行がん・再発がんでは、一部の腎臓がんや膀胱がんに対し免疫治療を行っています。免疫治療は、がん細胞が免疫の働きにストップをかけている状態を改善するための薬剤(免疫チェックポイント阻害剤)を投与し、免疫ががんを攻撃する力を正常に戻す治療法です。また標準治療を終えた後に再発された患者さんには、がんの遺伝子を詳しく調べて治療を行う「がんゲノム医療」をご説明させていただきます。個々の患者さんのがんに特異的な遺伝子異常を見つけ、がん細胞に見られる異常なタンパク質をピンポイントで攻撃する薬を使うことで、患者さん一人ひとりに合わせた治療を行っていきます。厚生労働省からまだ承認されていない薬や開発中の治療法を用いた治験や臨床試験も、経験豊富な医師が患者さんの病状や全身状態を考慮に入れ積極的に行っています。
Q:今後の展望を聞かせてください。
医療技術や薬剤の開発は最近めざましく進んでいます。がん専門病院としての、私たちの使命は、ご紹介いただいた患者さん一人一人を大切に、丁寧に診察し、かつ迅速に質の高いがん医療を提供することです。質の高い医療を提供するために、最先端の技術、薬剤をいち早く取り入れていくと同時に、治験、臨床試験を積極的に推し進め、新たな治療の開発にも力を注いでおります。治療の選択肢が増えてきたからこそ、個々の患者さんに最善の治療を提供するには医師の技量の重要性が増しています。東海地方における泌尿器がん治療の要になれるようスタッフ一同邁進いたします。