愛知県がんセンターの開設50周年に当たり、すべての関係者の皆様方に厚く御礼を申し上げます。奇しくも東京オリンピック並びにそれに備えて開業した東海道新幹線も50周年を迎えております。時代背景を思いますと、国立がんセンターに遅れることわずか2年で、がんが国民病となる未来を予見し、研究所を併設した県立の本格的ながんセンターを作られた桑原幹根知事の慧眼は敬服に値します。その後、日本のみならず世界のがん研究、がん医療をけん引してきた愛知県がんセンターの輝かしい業績は財産であり、誇りでもあります。しかし、2年半前に赴任してきて驚いたのは病院規模に対する医師、事務部門を含めた職員の数の少なさ、研究所にセルソーターや次世代シークエンサーも無かったこと、託児所もなく、老朽化した看護宿舎など沢山問題がありました。成長を続ける先進的な病院は高度な医療に対応するために、人員配置、機器整備などの先行投資を行い、特に現在では極めて重要になってきた医療連携部門、広報部門などの強化も図っております。愛知県がんセンターには、こういった成長戦略がありませんでした。
困難になった看護師確保、定着対策に、託児所が開所され、看護職員宿舎の借り上げが始まりました。電子カルテも導入されましたが、いずれも遅きに失した感があります。
少ない人数で頑張っている職員の帰属意識は驚くほど高く、愛知県がんセンターを良くするためにどうしたらいいかを常に考えてくれています。この愛知県がんセンターの宝である職員のモチベーションを保たねばなりません。50周年は記念すべき通過点ではありますが、これを起点に愛知県がんセンターの成長戦略を実現していく必要があります。記念式典や国際シンポジウムは50周年の記念ではありますが、目的ではありません。50周年を機に高度先進医療を担う成長する愛知県がんセンターを目指さなくてはなりません。すでに治験の受け入れ件数は愛知県では一番、全国でも有数の数を誇っております。団塊の世代ががん好発年齢に達しており、がん患者さんの絶対数の増加は避けられません。すべてのがん医療資源を効率的に使う必要があります。がんの予防、早期発見、新たな治療法の開発もさることながら、今緒についている個別化治療を最大限押し進め、これまで行われてきた一律の抗がん剤投与による副作用対策の無駄を省略し、効率的な治療を推し進めて、愛知県民の皆様方の期待に応えたいと考えております。その個別化治療を目指したバイオバンク事業も、今後の病院と研究所におけるTR(Translational
Research)には欠かせません。患者さんにお願いして、診療情報付の血液、組織サンプルのバンキングを是非始めたいと考えています。これらの事業には知事を始めとする県のご理解が必須です。
県民の皆様方に今後、50年100年と信頼され、愛される愛知県がんセンターになるための、避けて通れない成長戦略への投資とお考えいただき、ご配慮の程お願いしたいと思います。
御関係の皆様方に今後とも変わらぬご指導ご鞭撻をお願い申し上げ、50周年のご挨拶とさせていただきます。